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「これが黒矢鬼(くろやき)山の地図だ…」 田代信吾はおもむろにA3の地図をテーブルの上にひろげた。 「……といってもちゃんとした地図メーカーが出したものではない。たんなる落書き程度の代物だ。まあ、主要な目印(ポイント)の位置関係とおおよその距離感は把握できると思う」 田代はそういうと目の前のブラック・コーヒーを一口飲んだ。 「うん、これがあればとりあえずは大丈夫だな。いつでも現場調査可能というわけだ…」 田代と向かい合わせに座る佐田俊介が頷いた。  ふたりは神奈川県相模原市の北に位置する山小屋を模した少し薄暗いカフェの窓際のテーブルにいた。羊の群れのようにも見える秋の代名詞、高積雲は通称、ひつじ雲ともよばれる。ひつじ雲は秋空に鎮座し、空全体をまだらに染めていた。 夕暮れ時のカフェには田代たち以外にはたった一組の老紳士がいるばかりである。
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