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沙世さんはなかなか心を開いてくれない。半年経った今もお友達にも昇格しない。認識はいまだに“結ちゃんの幼なじみ”かもしれない。下手したら知り合いでもないかも…
まさか藤崎さんのこと…いや、好みのタイプは“影が薄い人”。そんなわけない。
でも藤崎さんは友達。藤崎さんが大丈夫で俺がダメな理由ってなんだ?自分にそこまで自信があるわけじゃないけど、でも、あまりにも…
「ヒナ、黒王子になってる」
声色は低く、小声で至に指摘される。マズいと思ったんだろう。
俺の視線の先を探ろうとする人は沢山いる。みんなに平等に目を向ける。一人を注視すれば俺じゃなく、彼女に被害が及ぶ可能性が高い。
視線を手前の、寒そうな桜の木に移す。
「春はまだ遠いね…」
なんて、どこぞの教養と気品溢れる王子が言いそうな発言を残して着席。至と京の背に隠れれば、その他大勢の視線から逃れることができる。ここは俺が誰かの影に入れる唯一の場所かもしれない。
「どこがいいの?」
と、至。窓を背にして、廊下に溢れる女子に手と愛想を振りまく。キャアと歓声が上がる。こっちの方が王子向きじゃないか?
「理由なんかない。そういうもんだろ?」
スクールバッグから教科書を取り出しながら答える。
「そうか?」
「なんか落ち着くんだよ。空気が。彼女を取り巻く空気に触れるとホッとする」
「同族嫌悪じゃなく同族愛好?」
「そんな言葉ない。あえて言うなら、同気相求じゃない?」
と、京。四字熟語で急に絡んできた。
京の仕事の処理能力はずば抜けている。でも感情が豊かではない分、情緒面でついて来れず、他人の行動の意図を読み間違えたり、間が抜けていたりする。
「意味わかんないけど、そんな感じ」
至は細かい事を気にしないから他人に優しい。キャパも大きい。人を否定しない。でも繊細じゃない分、意図せず人を傷つけることもある。
「ヒナが捨てた日陰人生。それができる彼女が羨ましいんじゃないの?その感情って好きより、憧れっていうか」
「それもあるけど。俺があのままの俺だとしても好きになってたよ」
「だからその要素はどこ?」
バカにしてるんじゃないからな!と、至は慌てて付け加える。
「ただの興味だけど」
「興味持たれたくないんだけど?」
「だから、どーこーとかないからさ!」
どーだか。疑わしい。
「睨まない、睨まない」
「説明できないよ。あ、この人だ!って思ったんだから仕方ないだろ?」
「その感覚がないわ、俺には」
「だろうな!あったらこうはなってないだろ?」
廊下から「至くん!」と手を振る女子に、性懲りもなく「今日も可愛いね」なんて手を振り返す至。
至の本気をいつか見てみたい。
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