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「でも波留野は大変だよ。伝言ゲームレベルでも精度の高い王子でいなきゃいけない。どこからも誰からも文句のない王子でなきゃいけないからな」
「それって?」
佐々木くんを見つめると、「あ、知らない?」と少し驚かれる。
「波留野は学園の広告塔なんだよ。それは知ってるよな?」
私が曖昧に頷くと佐々木くんは苦笑い。私は相当、疎いようだ。
「波留野の家は父親を早くに亡くしてて母一人子一人なんだよ。で、学費免除と卒業の条件が学園の収益を上げること」
「ホントに?」
未成年なのにそんなノルマ課せられてるの?
「ホント!だからさ、バレンタインとか言ってるけど、完全お仕事。王子は誰のものにもなっちゃいけない」
「え?」
「一点の傷も曇りもない、“みんなの王子”じゃないといけないんだよ」
大変だよ、と佐々木くんが言う。重い口調に硬い表情だ。他人事なんかじゃなく、王子を思い計っての、ちゃんと愛情ある言葉だ。
一点の曇りもない…
夏の強い日差しを思い出す。雲一つない真っ青な空、アスファルトに突き刺さる日差し。土がむき出しの広場には遮るのがなく、日陰もない。
そんな中でも大勢の人と向かい合う王子は少し寂しそうに笑う。さっきの顔と重なる。想像しただけなのに、切ない。
「あ、でも結ちゃんと…」
元カレカノという話を耳にした。
「あー、元カノの話?俺、波留野と地元が一緒だから知ってるけどあれは嘘。小さい時から親分子分。波留野は神南に顎で使われてた。気は許してる。でもそういう関係に発展するわけないよ。それにあんなにキラキラしてなかったし」
「え?キラキラって、波留野くんが?」
「そう。波留野は教室の隅で静かに読書してるようなヤツだよ。神南とは真逆。合わないよ」
「そう、なんだ…」
王子は日向の人なんじゃなく、ホントは日陰人間。今は日陰に入りたくても入れない人?
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