好きな人〜王子side

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好きな人〜王子side

 ごめんね、と女の子たちに一言挨拶して教室に入る。立ち止まるともみくちゃにされることは学習済みだ。止まらず流れるように動く。  スタスタと変わらぬスピードで窓際の一番後ろの席に到着。授業中は誰の視線も感じないこの席は息抜きできる場所の一つだ。 「おはよう、(いたる)(けい)」  前の席には堂島(どうじま)(いたる)。横には堂島(どうじま)(けい)が既に座っている。  外見はそっくり。見分け方はメガネがあるかないか。性格は全く似ていない一卵性の双子だ。  至は女子に優しい肉体派。対して京は戦略命の頭脳派。二人はこの学園の副会長でもある。  俺が会長に選出された際に“副会長人事はもれなく会長の独断”と聞かされ、二人を副会長に指名した。 「おはよう、会長」  至の嫌味ったらしい呼び方にも構わない。スクールバッグを肩から下げたまま中庭の奥、二年棟の廊下をじっと窺う。 「ハンターの目だよ。怖いって」  と、京。本の向こうからボソッと注意を受ける。 「なんだよ!楽しいことでも起きた?」  と、至。全く心配してない。スマホ片手に愉快そうだ。知ってる風のこの口調、至近距離で拒否られたアレを見てたヤツといえば、 「結から聞いたんだろ?」  俺らと結は幼稚園からの腐れ縁だ。友達と呼ぶには他人行儀で、幼なじみで片付けるにもちょっと違う。どうにも抗えない家族のような存在に近いかもしれない。    「わざわざ聞くわけないだろ?流れてきたんだよ」  至と、黙って京もスマホ画面を差し出す。グループ名は“ヒナ恋応援隊”。絶対そんな気ないくせに悪ノリもいいとこだ。 「じれてんの?」 「もうちょっとリサーチして、作戦立ててからの方が効率的じゃない?」 「違うんだって!京。リサーチした結果がそれなんだよ」 「え?どういうこと?」 「好きなタイプは影のある人だっけ?」  至に一言「違う」と、否定する。 「え?なんだっけ?」 「影が薄い人」  速報ベースの情報は間違えも多い。律儀に訂正すると、そうそう!それ!と至はケラケラと笑う。知ってて言ってたのかよ… 「あ、これ、決まりなんだ!じゃあヒナじゃないね。今のヒナはよく日が当たってる。だから影も濃いよね」  と、京。真面目に分析されると余計に辛い。 「だろ?な!」  面白がる至に可哀想だと哀れむ京。どっちもどっちで腹立たしい。 「あ!」  渡り廊下に沙世さんを見つけて、思わず声が出た。2年の、金髪で身体もゴツくてちょっと、いやだいぶ目立つ藤崎さんと一緒だ。確か、同じクラスだったはず。  結、どこいったんだよ… 「なんで二人っきりにすんだよ」  クラスメイトだとしても納得いかない。沙世さんのリラックスしたあの表情を見せられては余計に。
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