好きな人〜王子side

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「で、本題。今年のバレンタインはどうする?」  夢もうつつもあったもんじゃない不幸街道まっしぐらな俺に、一年で一番厄介な案件を思い出させる京。 「逃げても何も解決しないからね!」  と、副会長らしい正論を振りかざす。先回りして無駄な逃亡を阻止する。 「バレンタインなんか、必要?」 「必要だろ!」  即答の至。たぶん個人的理由が大半。 「ヒナ、愚問だよ」  と、突き放すのは京。何のメリットもない京だ。おっかない。 「生徒手帳以前にヒナの契約書に書かれてるでしょ?」 「ま、おっしゃる通りで…」  とはいっても、実際にそう明記されているわけではない。  俺の卒業条件はそう無理なものではない。よくある特待生条件の成績上位者みたいな縛りはないのだ。広告塔と呼ばれる仕事にノルマはなく、あくまでニコニコと万人に愛想よくしてればいいだけ、なんだけど… 「その日はお休み貰っていいですか?」 「OLさん風に言う?ダメだろ!」 「普通にダメでしょ!」 「「一年に一度の解禁デー、だろ?」」  と、ツインズにあっさり却下される。  学園には抜け駆け禁止、接近禁止令なる暗黙の了解があるため、日常の学園生活に支障はない。男女問わず、普通に会話して、普通に対応する。ただそれだけでいい。  でもバレンタインの日だけ、全ての禁止条項は撤廃される。すなわち俺の身体の危機も意味する。 「次の日、身体中バキバキなんだけど?」  毎年、毎年、繰り返される女子VS俺の鬼ごっこ。男子は高みの見物で茶化してるだけだ。 「次の日は休んでいいよ。てか、もう受け取れよ。それが一番だろ?受付所、設置してやるから」 「そんな簡単じゃないだろ?受け取っても返せないものを」 「簡単だろ?たった一言『ありがとう』でいいんだよ。真面目に考えすぎなんだよ。そのナリで硬派だよな、お前は。ノリだろ!ノリ」  と、至は呆れ顔だ。珍しく冷たく突き放れた。苛立たせたか?と思ったが、「時代錯誤だー!鎖国時代かー」と、四字熟語風の言葉を並べて手足をバタバタさせる。子供の駄々っ子みたいに。  あ、ただ単に悔しいだけか… 「至は出し惜しめば倍はもらえるんじゃない?」 「大きなお世話だよ」  例えノリであっても気持ちの入ってるものを受け取って、「ありがとう」だけでは申し訳ない気がする。どこ王国のセレブ王子だよ!?って思う。で、結局、逃げ回る形になるんだけど… 「ヒナ、逆にさ、準備してもらったものを受け取らないのも失礼な話だよ?受け取るのもヒナの仕事じゃないのかな?」  と、京。京の話は至極真っ当。でもさ… 「あと、至。鎖国時代ってなに?江戸時代に鎖国政策をしたんだよ?」 「伝わればよくない?」 「これだから、もう…」  京はそっくりな自分の片割れを残念そうに見る。これ見よがしに大きなため息をつくけど、至はやっぱり気にしない。
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