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「なぁヒナ。今年は好きな子からチョコ、もらえるかもしれないぞ」
至が突然、真面目な顔で俺を見る。真面目というより、悪代官っぽくもある。
「一応校則には“バレンタインにはチョコを一つ渡す”って決まりがあるんだから、貰えるかも…だろ?」
確かに。例え義理でも…
「彼女に近い存在の男子なんて、今のところお前ぐらい」
畳み掛ける至の一言で、嫌なことを思いだした。
「あ…」
「あ?」
さっきの楽しそうな沙世さんを。
「藤崎さん…」
俺じゃないじゃん…
ちょっと浮上しかけて大きく沈む。
「2年の?金髪の?」
「そう」
「あの人、彼女いるじゃん」
「え!?そうなの?」
机に乗り出すと、「落ち着け!」と至に肩を叩かれた。静かに椅子に座り直して、祈るように至を見つめる。
「有名じゃん。あの外見で彼女一筋」
「マジ!?」
「俺はそういう嘘だけはつかない。うん」
信じろ!と、至。
なんだ!藤崎さん、あの外見だけどいい人じゃん!
「この無茶苦茶な校則に乗っからずして何に乗っかる!?だろ?な!」
「確かに…」
「じゃあ、段取りよろしく!」
「は?」
「欲しいんだろ?」
至は「ヒナなら大丈夫!」と、俺の手を取る。廊下から絶望のような、喜びのような悲鳴があがる。
「さっきのアレもいきなりだっから恥ずかしかったんだよ」
「そうなの?」
「そうだよ!他人の目もあるし、何より素直にはなれないって!ヒナは学園王子だぞ!そんな恐れ多い方に触られたらまず逃げ出すよ。ヒナだからじゃない。ヒナが王子だから、だよ!」
「そっか!そっか!!」
「そうだよ!ヒナ!!だから、はい、職員室行ってきて!先生に許可取って、朝礼でドドーンと発表しちゃおう!!」
「なるほど、わかった!」
至のおかげで元気が出た。
扉に向かうと人が左右に分かれ、道ができる。職員室にズンズン突き進む。
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