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 いつまでも迷っていては埒があかない。  俊哉はしぶしぶ再び自転車のペダルをこぎだした。しばらく進むと幹線道路を走る車の音も聞こえなくなった。あたりはまさに静まり返っている。都市部なのでたいして星も見えない。  (おぼろ)な月明かりと自転車のライトだけが頼りだ。やがて20号地のバス停が見えてきた。すでにバスの時間は終わっているが、うすぼんやりとした電燈が灯っていた。俊哉はバス停で佇む女性の霊をついつい思い浮かべてしまった。  俊哉にとって怪奇現象とは脳の錯覚以外のなにものでもない。とはいえ、人間は本質的に闇を恐れる。人は漆黒のなかのスクリーンに脳でイメージした幻影を投影してしまうことがある。たいていは疲れていたり、眠かったり、いずれにしても脳の活動が低下しているときにそういうことが起こりやすい。だから冷静かつ愚直に42区画を目指そうと俊哉は思った。
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