閑話

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閑話

 駒鳥のごとく可憐な笑い声が耳朶に響き渡って、ロビンは顔を顰めていた。ソファに横になるロビンと共にスズランの香りを漂わせたエドワルダが座っている。エドワルダはロビンの頭を膝に乗せ、先ほどの出来事を思い出しては可憐な笑い声をあげるのだ。 「うるさいよ……」  そんなエドワルダにロビンはぼやく。エドワルダは笑うのをやめ、ロビンの顔を見下ろしていた。 「僕に殺されると思った?」   そう思ったからあの場で君を引き離したとは言えない。ロビンはエドワルダから顔を逸らし、静かにうつむいた。 「なんだか君は隠し事が多いい人だね。普通、あんなの笑って流すのに」 「口づけだぞっ! そんな反応できるか!」  ロビンの怒声に、エドワルダは腹を抱えて笑い出した。ロビンは不機嫌そうに眼を歪め、彼女を睨みつけることしかできない。 「まあ、出方によっちゃ君を殺そうと思っているのは事実だ。ここは僕の家だからね。僕には僕の大切な住処を守る義務がある」  笑うのをやめ、エドワルダは軽やかなる声でロビンに答えた。ロビンは眼を見開いて妖艶なる微笑みを抱く乙女を見ることしかできない。エドワルダは口角を歪め、言葉を続ける。 「悪いが、ここのモリーたちはまだ君を信用している訳じゃない。過去にも何度かあったからね、風紀改善協会の連中が僕らの城を荒らしたことが何度も何度も……」  エドワルダの声が冷たさを帯びる。彼女はそっとロビンの頬をなで、彼の顔を覗き込んできた。氷のごとく冷たいエドワルダの眼をロビンは見つめることしかできない。 「君はこちら側の人間。それとも、僕らの敵? 僕が殺さなくちゃいけない相手……?」 「殺すって……エドワルダ」 「冗談だよ。冗談……」  エドワルダの頭がロビンから離れ、その顔に嘲笑が浮かぶ。少し君をからかっただけだとエドワルダは笑って言葉を続けた。 「君が僕らの敵でないことを証明してくれればいい。そう、例えば僕と寝るとかね」 「寝る……」 「SEXするってことさっ」  弾んだエドワルダの言葉に、ロビンはぎょっと眼を見開いていた。驚きのあまり起き上がったロビンに、エドワルダは意味深な笑みを送るばかりだ。 「その……君はモリーじゃないだろう……」 「心外だな。僕はモリーだ。モリー以外の何物でもない」 「でも君は、女にしか見えないぞ」  ロビンは黄色いドレスの裾を正し、まじまじと蒼いダマスク織のステイズを着たエドワルダを見つめた。プティングのようにふっくらと巻かれた金糸の髪に、ボーンチャイナのように白い頬。意志の強さを感じる蒼い眼は湖さながらに、ロビンをじっと映し出している。  ニンフのごとく美しい彼女のどこに、男を想わせる要素があるというのだろうか。 「試してみるかい?」  羽織ったステイズの紐にそっと触れ、エドワルダはドレスを脱ごうとする。とっさにロビンは手を伸ばし、そんな彼女を止めていた。 「ちょっと待ってくれ……心の準備が……」 「敬虔なるプロテスタントではなさそうだ。僕の操に興味がある」 「君を抱くつもりは毛頭ないっ!」  エドワルダの言葉にロビンは叫ぶ。きょとんとロビンは彼を見つめたあと、いかにも楽しいといった表情を浮かべ笑い始めた。 「モリーのくせに根から純情と来てる……。君は本当に面白い奴だな。そうだな、こんな間抜けに偵察が務まるとも思えないよ」 「間抜けで悪かったな……」 「そうかあ、僕は抱けないか。それは困った。君をテストできない」  はあっとため息をついてエドワルダは言葉を吐き出す。そんな彼女を睨みつけ、ロビンは口を開いていた。 「別に抱かなくてもできるだろうが……」 「そうだね、あれを見せれば問題ない」 「あれ?」 「モリーたちの結婚式さ」
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