13 エピローグ

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13 エピローグ

 那弦を家に送るつもりが、何故か二人で俺の家にいる。  今日も明日も文化祭だ。  きっと疲れているだろうから、早く休みたいに違いない。  それなのに、那弦は自分の家に帰ろうとはしなかった。 「もう少し、傍にいてもいい?」  俺の制服の裾を掴んで、躊躇いがちにそんな事を訊いてくる。  路上でなかったら押し倒しているところだ。  しかも、俺も同じ気持ちでいたという気恥ずかしさから、那弦の顔を見る事もできず、手を引くだけで精一杯だった。  そんな訳で、那弦は俺の部屋にやってきた。 「那弦は、どうされるのが好き?」 「え?」  部屋のドアを閉めながら訊くと、那弦は意外そうに首を傾げた。  いつも、俺が好き勝手に抱いていたからな。  そんな事を訊かれるとは思ってもみなかったんだろう。 「知久がしてくれるなら、全部好きだよ」  床に鞄を置いて、制服のブレザーを脱ぎながらそう言う。  それだけで理性がどこかへ行ってしまいそうだ。  ネクタイを解いて、ワイシャツのボタンを外し始めた。  習慣のような動きが、なんとなく癪に障った。  その手を取って、那弦の動きを止める。  反射的に顔が上に向いた所で唇を重ねた。 「ふぁ、…っん」  舌を絡めながら、ふと気付いた。  まるで恋人同士のキスみたいだな、と。  そして、無性に恥ずかしくなって顔を逸らしてしまった。 「最初の時は、結構嫌がってただろ」  今更そんな話をしてどーする。  そりゃ嫌がるに決まってるだろ。  何を訊いてんだよ、俺は。 「気にしてたの?」  那弦は意表を突かれたような声で訊く。 「…別に」  とは言うが、思いっきり気にしていたよ。  あんなに嫌がっていたのに自分からやってくる意味が分からない、って。  音楽室での出来事を思い出しているのだろう。  那弦は少し目を伏せて口を開いた。 「あれは、突然で驚いてしまって」  そりゃそうだろう。  驚いていなかったら、その方が驚きだ。 「でも、『また』って言われて嬉しかった」  ふわりと笑って那弦が言う。  これもまた、不可解な表現だと思った。 「嬉しい?」  こいつの思考は本当に分からない。  あの行為を「また」と言われて、恐れこそすれ、どうして嬉しく思えるのか。 「好きだから」  怪訝な顔を見せた俺に、当然のように那弦がそう言う。  那弦の口から発せられる「好き」という言葉は、例外なく俺を混乱させる。 「初めて喋った時に好きだなって思って、一緒に委員やっていた時も楽しかったし」 「…え? え?」  分かりやすく動揺してしまうのは、時系列がおかしいと感じたからだ。  こいつ、今なんて言った?  「初めて喋った時」?  それって、美化委員の初日のことだろ。  あれはまだ四月で、音楽室での一件の半年近くも前で。 「知久?」  思わずその場に座り込んでしまった俺を、心配するように那弦が覗き込む。 「大丈夫?」 「……全然、ダメ」  不意打ちにも程がある。  そんな告白、今されたらダメに決まっているだろ。 「具合悪いなら…わっ!」  心配してくれる那弦の腰を抱えて持ち上げてやった。  そのままベッドに運び、どさっと下ろす。  丁寧にしてやりたい気持ちはあるが、今はそれどころではない。 「どうしたの?」  那弦は、態勢を直しながらベッドの横に立つ俺を見上げた。 「どーしたの、じゃねぇよ」  やや大き目な声を上げると、那弦が少し身体を竦ませた。  怖がらせたい訳でも、威嚇したい訳でもない。  が、そういう風に取られても仕方がない。  何しろ、余裕が無いのだから。 「お前、そういう事はもっと早く言えよっ」  八つ当たりの自覚がある分、後ろめたくて声が上ずる。  今日こそは、絶対に優しくしてやろうって決めていたのに。 「えっと…ごめんなさい」 「謝るな!」  俺が何に対して苛立っているのかも分からないクセに、とりあえず謝るなんてマネするな。  こいつはずっと言ってたよ。  信じられないけど、俺の事が「好き」だと。  てっきり、あの音楽室での出来事で頭のネジが何本か飛んで、そんな意味の分からない事を言いだしたのかと思っていた。  けど、那弦はなんて言った?  「初めて喋った時」?  アレよりも前から?  そんな馬鹿な事があって堪るかっ。  行き場の無くなった憤りを目の前の那弦に向けるように、押し倒して上に乗る。  本当に、今日は優しくしようと思っていたんだ。  明日の事も考えて、那弦の気持ちがイイようにゆっくりしてやるつもりだった。  なのに、俺は今、何の準備もしていない那弦に突っ込みそうになっている。  ダメだ。  それはダメだと落ち着かせようとしても、どんどん熱くなっていく。  好き過ぎて余裕が無くなる。  ワイシャツから覗く鎖骨に舌を這わせながら、残りのボタンも外した。  肌蹴た胸を舐めまわし、那弦が悶えている間にベルトを外しズボンと下着を下ろしてやる。  さてどうしてくれようか、と指を舐めながら、無防備な那弦を見降ろした。
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