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なんだか暑くなってきた。顔に血が集まっているのを感じる。フィリルの頬も、赤く染まっている。
それから、俺たちは『ミラージュ』での思い出話に花を咲かせた。そこで繰り広げた冒険の、苦難を乗り越えたときのこと、失敗したときの笑い話。
二人で過ごした時のこと、一緒に見た輝く虹色の山。雲を越えた先にあった美しい遺跡の話。話は尽きず、あっという間に時間は過ぎていった。
「今日は、スライさんと一緒に過ごせてよかった」
店を出るときに、フィリルが言った。「スライさんは、思ったとおりの人でした」
俺はそう言われて、胸が痛んだ。
「俺はっ……、すいません、フィリルさんが来たとき、正直ちょっと、戸惑ってしまって」
俺は正直に胸の内を明かした。
「僕も、すいません。きっと、スライさんが女性のフィリルを期待していたのはわかっていたんです、僕も……」
俯きながら、フィリルが続ける。
「僕が男だってわかったら、スライさんは絶対に幻滅すると思って、言えなかった」
俺は、フィリルのそんな気持ちを聞きながら申し訳ない気持ちになる。
「たしかに……、実際会う前にそのことを知っていたら、どうだったかわかりません。でも……。」
たどたどしく、自分の心をなぞる。「でも、やっぱり、実際に会ったら、間違いなくフィリルだって思ったんです」
「俺が好きになった。生涯守ると決めた、相手です」
フィリルの目が見開かれる。両手は口元に当てられ、驚いている様子だ。
次第にフィリルの目が潤み、身体が震える。
そうして、口元の手を下ろし、俺の手を、そっと握った。
俺はフィリルの手を握り返す。
「これから冒険の続きを、こっちでしよう。フィリル」
英雄スライが、そう言った。
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