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こうやって人と約束すること自体あまりないので、約束の時間よりだいぶ早くに来てしまった。待っている間、フィリルと会って、なにを話そうか考える。
約束の時間が迫って、どんどん緊張してきた。改札のほうをちらちらと見ている。彼女は、ベージュのコートに、白のセーターを着てくると言っていた。先ほどからそれらしい格好をした人のほうへ目をやるが、どれもそのまま通りすぎてしまう。
何人めかのベージュのコートを見送ったあと、ついに、それらしき人物がいた。ベージュのコート、白いセーター。小柄で、短い髪の……。
しかし、それはよく見ると……いやよく見なくても男だった。
また違う人だったかと思い、他の人に目をやるが、そのベージュ男子はまっすぐこちらの方へやってくる。微妙に視線をそらしたりしてみるが、その彼は確実に俺の方を見ている。彼は俺の前で止まって、俺が一番言ってほしくなかった言葉を言った。
「あの、スライさんですか?」
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