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そうだ。いつも『ミラージュ』では、行き先を決めるのも、その日やることを決めるのも俺だった。
じゃあ、と、俺はメニューを見回す。ここにいる俺は安田重人ではない。『ミラージュ』の世界を何度も救った英雄、スライだ。
俺はフィリルに、食べられないものだけ聞いて、それの載っていないピザと、サラダを頼んだ。あと赤ワインを二人分。
ピザは、トマトソースとチーズにベーコンとキノコが載っかったもので、シンプルながらとても美味しかった。サラダはパルメザンチーズ?なんかそういうのが山盛りのシーザーサラダというやつだ。
ワインまで頼んだのは調子に乗りすぎた、と思わないでもなかったが、あの英雄スライなら頼むと思う、仕方ない。
「ワイン、合いますねえ」
目の前のフィリルがにこにこして言う。
俺も、そう思っていた。ワインの味はよくわからないけれど。
「ワインの味なんて全然、わかんないんですけど、ピザとワイン、なんか、いっしょに食べるとおいしい!」
ちょうど思ってたとおりのことをフィリルが言ったので、俺はつい吹きだす。
「え、なんです?なんか僕、変なこと言いました?」
「いや、俺も、おんなじこと」
俺は笑いが止まらず、途切れ途切れに息を切らせながら言う。
「まったく、同じこと思ってて……」
「そっかぁ!」
フィリルが口を三角にして笑う。その目は、三日月のように輝いている。
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