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風戸から届いた手紙は、読むのに難儀するぐらい字が歪んでいた。ここのところ、少々筆跡が荒いとは感じていた。だが、これはまるで蚯蚓が這ったような有様であった。
封筒の中には一輪の赤い小菊が入っていた。だが、僕にはその意味することが分からなかった。書かれた文章から意図するに、ただ供えて欲しいという風には思えない。
僕はそれを手にすぐさま着の身着のまま下宿を飛び出し、汽車に乗った。上着を着込んだ人々の中で、着物一枚の僕に周囲の視線が突き刺さる。だが、僕にはそんなことは気にならなかった。風戸の生死に気をとられ、寒さすら感じることはなかったのだ。
汽車を乗り継ぎ降り立つと、僕はもつれる足を懸命に動かして療養所を目指した。
山に生えている木々の葉はすっかり落ちていた。冬を感じさせる冷たい風が、汗を凍らせるように頬に吹きかける。
白い息を吐きながら、ようやくたどり着いた時には疲労で足が震えていた。立つのもやっとな僕を見つけた看護婦は、以前来たときに会った見知った女性だった。
彼女は目を真っ赤に染めて、僕のを顔見るなり駆け寄ってきた。
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