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「望月さん……風戸さんが」
僕は彼女の後に続いた。並んだ寝台の隙間を縫うようにして、僕は横たわる男の元へと近づく。顔には白い布がかけられていた。僕はそれを震える手で外す。
風戸が目を閉じてそこにいた。見る影もないぐらい白い頬が痩け、目の下に隈が浮かんでいる。口元には血が付いていて、最後まで喀血したことが分かる。
僕はぼんやりとその様子を見下ろした。
「今朝、お亡くなりになったんです。でも、どうして分かったのですか」
看護婦はそう言って、僕の手から白い布を取ると風戸の顔にかける。
「彼から、手紙が届いたんです」
僕はそう言って看護婦に手紙を渡す。彼女は一瞬、躊躇ったものの、封筒から便箋を取り出すと目を通す。更に封筒から出てきた赤の小菊に困惑した表情をした。
「どういう意味なんですか?」
彼女ならこの花の意味が分かるはずだった。風戸に花の意味を教えていたのは彼女なのだから。
だが彼女は目線を落とすと、一度唇を引き結んだ。まるで言って良いのかどうなのか、迷っているようだった。
「お願いします。教えてください」
風戸の意思を無視するわけにはいかない。この花を添える意味、僕はそれを理解してから供えたかったのだ。
僕が頭を下げると彼女は慌てた様子で、顔を上げてくださいと言った。
彼女は一度深呼吸すると、顔を上げた僕の目を見て口を開いた。
「この花の意味は――貴方を愛しています」
了
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