君想いし文花

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 繰り返しやらされる摩擦や運動、食事や入浴以外にやることもないのだよ。君には考えられないような生活だろう。話す相手も看護婦か医者ぐらいなもんだ。僕も君と同じで、あまり多くの人間と付き合おうとは思わない質だからね。  そう考えると僕がそっちにいない今、君は一体誰と仲良くしているんだ? 一人であの髭を無駄に蓄えた店主のいるバーで、酒でも飲んでいるのかい?  こっちに顔を出せばいい、と言いたいところだが、僕が喀血(かっけつ)していては君も良い心持ちはしないだろう。もっと、調子が良くなったら来たまえ。  ああ、それから、あまりにも暇な物だから僕はついこの間、庭の散歩をしたのだ。庭には看護婦が好んで植えた花や木がたくさん植わっているのだが、それを何気なしに見ていたら、看護婦が何を勘違いしたのか僕が根っからの花好きだと思ったらしい。嬉しそうに咲いている花を一個一個説明してくれてね。僕も暇だし、遮るのも可哀想だからと、話を聞いてあげたんだ。
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