君想いし文花

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 体調の良い日は「庭に行きましょう」といって、僕の手を引いてくる。僕が病人だということもお構いなしなのだから、とんだじゃじゃ馬娘だ。  君はそんな強引な人間ではないけれど、咳の酷い僕を無理矢理病院に連れて行ったのは君だったね。普段の大人しい君からは想像できないような力強さで、あの時は僕の腕を引いたんだ。驚いたよ。君のあんな恐い顔、初めて見た気がする。驚きすぎて病院嫌いの僕でも、従わずにはいられなかった。  おかげでこうして、少しでも生き延びられているのだから君には感謝しかない。でも君と離ればなれになってまで、生き延び続けるのはどうなのかとも思う。こんな女々しいことを言えるぐらい、どうにも最近気持ちが沈んでいる。  どうだい? 一度、こっちに来ないかい。都内の夏はこっちよりも暑いだろう。避暑も兼ねてこちらにきたまえ。五月蠅(うるさ)い看護婦と話すよりも、君と話す方がよっぽど身体に良い。待っているよ。  それから今日は朝顔を入れておく。看護婦 (いわ)く「はかない恋」と「友情」という意味があるらしい。どちらも違う意味に聞こえて、何処(どこ)か繋がっているように感じる。友情以上の恋は望めない、そんな風に僕には感じるのだ。     大正十四年七月 風戸 康雄
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