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きっと僕の中で君に対する親心に近い物があるのかもしれない。自分の元を離れていく我が子を不安に思う気持ちと、結婚して他者の物になるという嫉妬心。きっと僕も似たようなものだろう。
仲睦まじく話す姿を姑よろしく嫉妬の目で見ていたことには間違いない。認めよう。僕は大病をしてからというもの、頑固さを失ったように思える。きっと意地を張ったところでどうにもならないと思っているからかもしれない。
君との再会の時間はあっという間だった。近くに宿でも取っているのかと思っていたが、君はこのまま家に帰ると言った。とんぼ返りすることになってまで、僕のところに来てくれたのは嬉しい。だが、ゆっくり語り合えると思っていたものだから非常に残念でならない。
そんな名残惜しさからか、僕は君の夢を見た。君はいつものように僕の隣にいて、他愛ない話をしていた。某の話が面白かった、あの先生の授業はわかりやすい。そんなことを言って、君は終始笑顔だった。
白い頬が興奮でほんのり赤く染まり、男にしては優しい目元が細められていた。やや女顔の様な造形を君は嫌がっていたが、僕は君の顔が好きだった。こうして夢の中で鮮明に描かれるぐらいに、いつも君を見ていた。
目が覚めた時、僕は涙を流していた。まだ暗かった時分で、ぼんやりとした月明かりに照らされた室内は薄暗かった。見知った顔の人間が寝ているにも関わらず、僕は知らない場所に独りぼっちにさせられたような心持ちになった。
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