君想いし文花

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 望月君へ  久しぶりだね。  こちらでの生活もやっと整って、僕はこうして手紙を書く余裕ができたところだ。  僕は今、山奥にある病院での不便な生活が始まってしまった、というわけだが、君も変わらずあの狭い下宿先から大学に通っていることだろうね。  以前、僕は「もう少し広い下宿先にしたらどうだい?」と君に聞いたが、君は「安いし、飯が出るから構わない」と言っていたね。僕が口を聞いてやるって言っても、君は頑として首を縦には振らなかった。でも今は僕も君と同じように、窮屈な生活をせざるを得ない状況だ。  部屋自体はそこそこ広いが、十人ほどの人間がそこに収容されていて、僕の居場所といえば茣蓙(ござ)一枚分の広さの寝台の上だけだ。  すぐ隣には見知らぬ老人がいて、夜になると「かえりたい、かえりたい」と言って、五月蠅(うるさ)くて堪らない。こんなんじゃあ、良くなるものも良くなるはずがない。あまりにも酷いようなら場所を変えて貰おうかと思っている。  そんな生活も、気づけばもうすぐ三ヶ月が経つ。毎日が退屈で堪らない。住んでいた都会の潤沢(じゅんたく)な楽しさなど、この場所には微塵(みじん)も感じられないのだから。  君と夜な夜なあのハイカラな町に繰り出して、バーで酒を飲んだ日々が今では懐かしくてならない。
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