16話

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金曜日になると、誰が言い出したのか部署の皆で飲みに行く事になった。多分飲み会大好きな主任辺りが提案したんだと思う。 当然、将悟さんも私も参加。飲み会は嫌いじゃないし、あんまり飲めないけどわいわいしている雰囲気は好きだから、よっぽどじゃない限りは参加してる。 いつもよく行く居酒屋の個室で始まった飲み会。私はあえて将悟さんから離れた席に座ることにした。近い所にいると、ふとしたことで関係がバレちゃいそうだから。 盛り上がった飲み会は二次会カラオケコースとなるようで、居酒屋を出て参加者を募っている。 私はカラオケは苦手だから、一次会で帰ろうかな。将悟さんはどうするんだろうと思って近くにいた彼の方を見ると、まさに誘われている所だった。 「課長も一緒に行きましょうよ、カラオケ!」 チラッと私を見た彼は、微かに微笑んだ後一度深呼吸をしている。 どうしたんだろう?何か意味あり気な視線だったんだけど…… 「悪いな。俺は琴音と一緒に帰るから、お前たちだけで楽しんで来い」 ……え?今…… 「そうですか……って、え? 琴音……?」 「琴音って……?」 ざわざわとし始めた皆は、琴音って誰?と呟きあっている。いつも苗字でしか呼ばないから、下の名前だと分からないんだろう。 どうするべきか悩んでいると、ああ!と大きな声が上がる。声の主は鳴海さんだった。 「琴音って、松嶋先輩じゃないですか!!」 その声に、皆が一斉に私を見た。 え、ちょっと待って。これどうしたらいいの……? いつの間にか隣に来ていた将悟さんを、助けを求めるように見上げる。 「2人はその……付き合ってるってことでいいんですか?」 「ま、そういうことだな」 「ちょ、将悟さん!」 そんなあっさり認めていいの? 「将悟さん~~?!」 私が名前で呼んでしまったことで更に皆の興奮が高まったようで、しまったと思っても時すでに遅く周りを囲まれてしまった。 「いつから付き合ってるんすか!?」 「先輩何で教えてくれなかったんですか~! 私と先輩の仲なのに!」 「名前で呼び合ってるってことは、かなり前から?!」 矢継ぎ早に質問され、鳴海さんには何故か泣きつかれてしまった。その中で悲しそうな顔をしている女性社員が数人いるのが目に入って、少しだけ申し訳ない気持ちになる。 それにしても、これどう収拾したらいいんだろ。 「とにかく! そういうことだから俺達は帰るから。――そうだ。言っとくが、こいつその内中西に変わる予定だから、くれぐれも横やりしようなんて思わないように。琴音の事好きな奴は今すぐ諦めろ。それじゃあ以上、解散!」 まだ興奮が治まらない皆はなかなか解散しようとしなくて、将悟さんに手を引っ張られて輪の中を抜け出た。 さっき何か凄い事言われた気がしたんだけど聞き間違い……?隣の将悟さんを見ても、真っ直ぐ前を見てるだけでその表情からは何も読み取れない。 囃し立てるような声を後ろに聞きながら、私は戸惑いながら手を引かれて駅へと向かった。
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