19話

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19話

年末の多忙期を乗り越えた私達は、お正月休みを利用してお互いの両親への挨拶に回ることにした。 将悟さんの希望もあって、まずは私の実家から。とても緊張しているらしい彼は、顔がいつにも増して硬い。 「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ?家族も楽しみにしてましたし」 「そうは言ってもな……」 朝から何度も大丈夫だと声をかけるけど、表情は硬いまま。体の大きい彼がこんなに表情が硬いとちょっと怖い。 案の定、彼を見た両親が一瞬表情を強張らせたのが分かった。でも、話をしているとちょっと緊張が解れたようで、将悟さんにも笑顔が出るようになってきている。 「あの……お義父さんお義母さん、年末の忙しい時期にすみません。琴音さんと結婚したいと思っています。必ず幸せにすると約束します。辛い思いは絶対にさせません。結婚をお許しいただけないでしょうか」 急に真剣な表情で頭を下げた彼に、私も緊張しながら両親を見る。 「この子が紹介したい人がいると連絡してきた時に、嬉しそうにあなたの事を話していたと家内から聞きました。とてもあなたのことを大事に思っているんでしょう。……娘の事を、どうかよろしくお願いします」 そう言って将悟さんに頭を下げるお父さんの隣で、お母さんは何も言わずに優しく微笑んでくれている。2人のその姿は、きっと一生忘れないと思う。 厳しい時ももちろんあったけど、私がやりたいことは出来る限りやらせてくれた両親には感謝しかない。 夜になって大学生の弟達が帰ってくると、将悟さんの大きさに驚きながらもお兄ちゃんが出来る事をとても喜んでいた。その弟達の反応に一番喜んでいたのは将悟さんで、3人で楽しそうに話をしているのを見て私もすごく嬉しかった。 その日の夜、私の部屋に2人で泊まることになっていたから、将悟さんの入浴中に彼の布団をお母さんと2人で運び込んだ。 「私のベッドそのままなんだね」 「いつ帰ってきてもいいようにと思ってね。もう必要なくなるけれど」 その言葉に寂しさが込み上げてくる。嫁にいくからって、家族じゃなくなるわけでもないのに。 「……大学生の頃、琴音が男性で辛い思いをした事、母さん知ってるのよ」 「え?!」 「うちの男連中は誰も気付いてなかったけどね。様子が変だったからピンと来たの。あれから彼氏がいる様子もなくて心配してたんだけど……いい人を見つけてくれて安心したわ」 「お母さん……」 「あの人なら琴音の事しっかり守ってくれると思う。幸せになりなさい」 「……うん。ありがとう」 背中をポンポンとして部屋を出て行ったお母さんと入れ替わるように、将悟さんがやってきて私の頭を撫でてくれる。 「琴音? 何かあったか?」 「幸せだなって思ってただけですよ」 お母さんの言葉が嬉しくて泣きそうになっている私を、将悟さんはしばらく撫で続けてくれていた。
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