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翌朝の玄関には家族全員が集まっていた。今日は将悟さんのご実家に向かう予定にしているから、その見送り。
「失礼のないようにするんだぞ」
「しっかり挨拶しなさいよ。最初が肝心なんだからね」
「姉ちゃんボケボケしてる時あるからな~」
「ドジんなよ」
揃いも揃ってこの家族は……心配してるって言うよりバカにしてるよね?特に弟達!
「本当大事にされてるな、琴音」
何故か将悟さんは、そんな私たちのやりとりを笑顔で見つめていた。
「じゃあ、そろそろ行くか」
実家を出て、将悟さんとやってきたのは空港だった。彼の実家は遠方だから、飛行機じゃないと乗り換えが大変。
「次は琴音の番だな」
飛行機に乗り込んでから言われた言葉で、緊張感が増してくる。大丈夫なのかな……
「別に心配することないぞ。うちは田舎だし気楽に構えてたらいい」
「そう言われても……」
やっぱり緊張はする。こんな嫁は認めないとか言われたりしないよね。
彼の実家への道中悪い事ばかり浮かんできた私の前に現れたのは……
「あら~、こんな遠いところまでわざわざ! よう来てくれたね~。お父さん! 将悟が別嬪さん連れて来たよ~!」
「そんな叫ばんでも聞こえとる。いらっしゃい。うるさい奴ですまんね」
「い、いえ……」
正直、予想もしてなかったお義母さんの歓迎っぷりに驚いてるけど、そんなことは言えない。
「さあさあ、上がってちょうだい!」
「お邪魔します」
居間に通されると、すでに男性が1人座っていた。
「よう、将悟。ついにお前も結婚するのか」
「兄貴も帰ってきてたのか」
「俺はお前と違って正月には毎回帰って来てるぞ」
「義姉さんは?」
「今飯作ってるよ。チビは寝てる」
「そうか」
「あの……将悟さん」
このあなたそっくりな顔で、やっぱり体が大きいのは……
「ああ、これ俺の兄貴。結婚して子供が1人いるんだ」
「はじめまして。松嶋琴音といいます」
「はじめまして。将悟のことよろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
お義父さんもお義母さんもそんなに体大きくないのに、何故この兄弟はこんなに体が大きいんだろう。謎だ。
お義父さんとお義母さん、それからお義兄さんに結婚することを伝えると、皆すごく喜んでくれた。
「お義母さーん! ちょっと来てー」
「はいはい!」
お義兄さんのお嫁さんに呼ばれたお義母さんが席を立つ。夕飯の支度で忙しくしているみたいで、少し居心地が悪い。何もしなくていいのかな。
「琴音は座ってていいぞ」
将悟さんはそう言ってくれたけど、お母さんにも最初が肝心って言われたしな……
台所に向かった私は、お義母さん達に声をかけることにした。
「あの……何かお手伝いできることありますか?」
「あら、あなたが将悟君の? 座っててくれたらいいのよー」
お義姉さんがニコニコと優しい笑顔でそう言ってくれる。
「でも……」
「じゃあ、これやってちょうだい!」
お義母さんに渡されたボウルの中には……卵?
「そこにフライパン入ってるから、卵焼きよろしくね!」
最初からまさかこんなこと任されるとは……私の卵焼きでいいんだろうか。
私が少し面食らっていると、お義姉さんがクスクスと笑っている。
「ビックリしたでしょ? ここでは嫁になるからって気を使う必要なんてないのよ」
将悟さんの言っていた、気楽にしてればいいの意味が分かった気がした。
きっと将悟さんには分かってたんだね。お義母さん達がこんな風に温かく迎えてくれるって事。多分、お義姉さんが連れてこられた時もそうだったんだろうな。
まだ結婚すると決まっただけで実際に嫁いだわけでもないのに、すでに家族のように扱われている事が嬉しくて胸が温かくなった。
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