19話

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翌朝の玄関には家族全員が集まっていた。今日は将悟さんのご実家に向かう予定にしているから、その見送り。 「失礼のないようにするんだぞ」 「しっかり挨拶しなさいよ。最初が肝心なんだからね」 「姉ちゃんボケボケしてる時あるからな~」 「ドジんなよ」 揃いも揃ってこの家族は……心配してるって言うよりバカにしてるよね?特に弟達! 「本当大事にされてるな、琴音」 何故か将悟さんは、そんな私たちのやりとりを笑顔で見つめていた。 「じゃあ、そろそろ行くか」 実家を出て、将悟さんとやってきたのは空港だった。彼の実家は遠方だから、飛行機じゃないと乗り換えが大変。 「次は琴音の番だな」 飛行機に乗り込んでから言われた言葉で、緊張感が増してくる。大丈夫なのかな…… 「別に心配することないぞ。うちは田舎だし気楽に構えてたらいい」 「そう言われても……」 やっぱり緊張はする。こんな嫁は認めないとか言われたりしないよね。 彼の実家への道中悪い事ばかり浮かんできた私の前に現れたのは…… 「あら~、こんな遠いところまでわざわざ! よう来てくれたね~。お父さん! 将悟が別嬪さん連れて来たよ~!」 「そんな叫ばんでも聞こえとる。いらっしゃい。うるさい奴ですまんね」 「い、いえ……」 正直、予想もしてなかったお義母さんの歓迎っぷりに驚いてるけど、そんなことは言えない。 「さあさあ、上がってちょうだい!」 「お邪魔します」 居間に通されると、すでに男性が1人座っていた。 「よう、将悟。ついにお前も結婚するのか」 「兄貴も帰ってきてたのか」 「俺はお前と違って正月には毎回帰って来てるぞ」 「義姉さんは?」 「今飯作ってるよ。チビは寝てる」 「そうか」 「あの……将悟さん」 このあなたそっくりな顔で、やっぱり体が大きいのは…… 「ああ、これ俺の兄貴。結婚して子供が1人いるんだ」 「はじめまして。松嶋琴音といいます」 「はじめまして。将悟のことよろしくね」 「こちらこそ、よろしくお願いします」 お義父さんもお義母さんもそんなに体大きくないのに、何故この兄弟はこんなに体が大きいんだろう。謎だ。 お義父さんとお義母さん、それからお義兄さんに結婚することを伝えると、皆すごく喜んでくれた。 「お義母さーん! ちょっと来てー」 「はいはい!」 お義兄さんのお嫁さんに呼ばれたお義母さんが席を立つ。夕飯の支度で忙しくしているみたいで、少し居心地が悪い。何もしなくていいのかな。 「琴音は座ってていいぞ」 将悟さんはそう言ってくれたけど、お母さんにも最初が肝心って言われたしな…… 台所に向かった私は、お義母さん達に声をかけることにした。 「あの……何かお手伝いできることありますか?」 「あら、あなたが将悟君の? 座っててくれたらいいのよー」 お義姉さんがニコニコと優しい笑顔でそう言ってくれる。 「でも……」 「じゃあ、これやってちょうだい!」 お義母さんに渡されたボウルの中には……卵? 「そこにフライパン入ってるから、卵焼きよろしくね!」 最初からまさかこんなこと任されるとは……私の卵焼きでいいんだろうか。 私が少し面食らっていると、お義姉さんがクスクスと笑っている。 「ビックリしたでしょ? ここでは嫁になるからって気を使う必要なんてないのよ」 将悟さんの言っていた、気楽にしてればいいの意味が分かった気がした。 きっと将悟さんには分かってたんだね。お義母さん達がこんな風に温かく迎えてくれるって事。多分、お義姉さんが連れてこられた時もそうだったんだろうな。 まだ結婚すると決まっただけで実際に嫁いだわけでもないのに、すでに家族のように扱われている事が嬉しくて胸が温かくなった。
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