3話

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温泉から出て部屋で休憩をしていると、宴会の時間がすぐそこに迫っている事に気付いて慌てて支度をする。さすがにスッピンを晒すわけにはいかない。 「先輩、早く早く!」 「ま、待って!」 ああもう!しょうがない!これならまだマシでしょ。 時間が無いことを理由に、軽くパウダーを叩いて眉毛を整えただけで宴会に行く事にした。 そして、宴会が始まって1時間。私はもうすでにグッタリとしている。 社員旅行の宴会って、こんなに疲れるんだ……このまま泊まれるからって、皆お酒が入りすぎてるんだろうな。飲めや歌えの大騒ぎとはまさにこのことだわ。 元々そんなに大はしゃぎするタイプではないから、周囲とのテンションの差に引いてしまってこっそりと溜め息を吐く。 さっきから時々会場を抜け出してる人も見かけるから、私も抜けちゃおうかな……なんて、そんな考えが頭を過ぎってしまう。 「どうしたの? 疲れちゃった?」 「少し。お酒にも酔ったみたいで」 「確かに顔赤いものね。先に部屋に帰る?」 「そうします」 七瀬先輩の言葉を有難く受け取って、そそくさと宴会場を抜ける。 もう部屋に帰ってのんびりしよう。そう思って部屋へ向かう最後の角を曲がろうとした時、目に飛び込んできた光景に思わず壁に隠れた。 嘘でしょ?何でそんな所でキスしてるの……?! こそっともう一度覗くと、私達の1つ手前の部屋の入口で男女が濃厚なキスシーンを繰り広げている。よく見ると社内で見た事のある顔だから、この社員旅行をきっかけにくっついたカップルなのかもしれない。 だとしても、部屋の外でキスしなくても……せめて中でしてよー……これじゃあ部屋に入れないじゃない。 途方に暮れた私は、漏れ聞こえてきたリップ音と吐息に恥ずかしさのあまりその場を離れた。 部屋には帰れない。でも、宴会場に戻るのもな……先輩に理由も聞かれそうだし。あんなの恥ずかしくて言えないよ……
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