3話

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外を散歩して時間をつぶす事にした私は、旅館の庭と周囲を散策することにした。 「やっぱり、夜はちょっと風が冷たいな」 半纏を羽織ってるとはいえ、その下は旅館の浴衣。この季節の夜に外に出る格好ではないかもしれない。最初こそお酒で火照った体には気持ち良かったけど、少し歩いていると寒いと感じてきた。 でも、まだちょっとしか経ってないから部屋に戻るのもな……外にはいないかもだけど、あの雰囲気だとね……絶対最後までしてるだろうし……。もしも声とか聞こえてきたら居た堪れないから、やっぱり部屋には戻れないな。 さすがに宴会が終わる時間にはあちらも終わるだろうし、同室の人だって帰ってくるはず。でも、それまでまだ1時間近くあるんだよな…… 「はぁ……どうしよ」 独り言ちていると、後ろから物音が聞こえる。驚いて振り返った私は、そこに居た人物に更に驚いた。 「課長……?! 何でこんな所に?」 「お前こそこんな所で何やってるんだ?」 「私はその……」 さすがに課長にさっきの事は言えないと言い淀む私に、課長はそれ以上突っ込んでくることは無かった。 「課長はどうしてここに?」 「俺は……ちょっとな」 「?」 課長にしては珍しく歯切れが悪い。何か言いにくい事なのかな? あ、もしかして…… 「誰かに告白しようと思ってここに来たんですか?」 「……は?」 「ここなら人目に付かないですもんね。だったら私はどこか他の場所に……」 「待て、何でそんな話になったんだ?」 「社員旅行でカップルになる人が多いって聞いたので、課長も誰かに告白するのかなと思って」 私の言葉に、課長は驚いた様に目を見開いた。 あれ?もしかして噂の事知らなかったのかな?じゃあ、何で外に? 「……お前は?」 「え?」 「松嶋は、誰かに告白するためにここに居たのか?」 「いえいえ、私はそんなんじゃないですよ!」 「じゃあ何で外にいるんだ?こんな時間に」 「それは……ちょっと、部屋に帰れない事情がありまして」 「帰れない事情?」 「あはは……そうなんです」 笑って誤魔化せないかなと思ったけど、何故か今度は言うまで許してくれなさそうな課長の雰囲気に観念して事情を説明した。 「――なるほどな。それはまたなんというか……」 「まあでも、幸せなことではありますからいいんですけどね」 告白して本当に両想いになれたんなら、そんなに幸せな事はない。そう考えて、胸の奥の方がチクリと痛む。 「だからって、何も外に来ることも無かったんじゃないか?寒いのに」 「行くところが浮かばなくて」 「それなら宴会場に戻ればよかっ……」 「っくしゅん!!」 盛大なくしゃみの後に、思わず体がブルっと震える。やっぱり寒いかもしれない。 「そんな薄着でこんな所に居るからだぞ。ほら、これ着てろ」 課長が着ていた上着を躊躇なくかけてくれる。 「え、いいですよ!だって課長が寒く……」 「俺は大丈夫だ。お前に風邪ひかれる方が困る」 社員旅行が終わったら年末に向けて忙しくなるし、風邪ひかれて休まれちゃ困るよね。 「言っとくが、別に仕事を休まれたら困るとかそういう意味じゃないぞ」 「え?」 心の中を読まれたかのような言葉。じゃあ、どういう意味なんだろう? 「風邪をひかれたら俺が困る。心配で仕事が手につかなくなるから」 「何で……」 そんな言い方したらまるで…… 「……俺がここに来たのは、お前を探してたからだよ」 「探してた?」 「気付いたらお前が宴会場から居なくなってたからな。旅館の人に外に出てたって聞いて探したんだ」 「どうして……」 「噂の事は知らなかったが、男女で抜け出してる社員がいるのには気付いてたからな。もしかしたらお前も誰かとって思ったら、気が気じゃなかった」 「課長が気にすることじゃ……」 「気にするだろ普通。好きな女が他の男と一緒かもしれないと思ったら」 ……は? 「え……は?え、ちょっと待って課長、今なんて……?」 「俺はお前が好きだ」 ………えええええええええ?!
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