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「中西課長、確認をお願いします」 さっき出来上がった書類を手渡し、ペラペラと捲りながらチェックしている課長を真剣に見つめる。確認してもらうこの時間が一番緊張する。 就職してもう5年。入社当時課長はまだ主任で、新人時代には色々と助けてもらうことも多かった。 短髪長身で体格もいい課長は、一見すると怖くて近寄りがたい。真面目で仕事に手を抜かないからちょっと厳しいこともあるけど、ちゃんと優しいのを皆知っているから尊敬はされている。 「うん、良く出来てる。お疲れ」 「ありがとうございます」 ホッとして席に帰ろうとすると、課長に呼び止められた。 「そういえば、松嶋今年は参加するんだな、社員旅行」 「あ、はい。今年は行き先が変更になっていたので、参加しようかなって」 「去年までは、お前の地元だったんだっけ?」 「はい。地元に旅行で行く事もないかなと思って遠慮してたんです」 「そうか。楽しめよ、初めての社員旅行」 「ありがとうございます」 自分の席に戻り、誰にも気付かれないように溜め息を吐く。本当は会いたくない男がいるからだったんだけど、そんなこと課長に言う事でも無い。 ――別によくある話だ。好きで尽くした相手に裏切られたってだけ。ただ、自分が全く愛されていなかったなんて、そんな辛い事は思い出したくない。ただでさえあれ以来、男性が信用できなくて恋人も作れないんだから。 元彼と別れてからもう5年が経つのに、いいなと思う人が出来ても、もしかしたらこの人もそうなんじゃないかとどうしても疑心暗鬼になってしまう。 街中を仲良さそうに歩いているカップルを見ると羨ましいとは思うけど、きっと私はこのまま一人で生きていくんだろうなって、アラサーと言われる年齢になって思うようになっていた。
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