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2話
バスが出発してからも、隣からの視線はずっと感じたまま。……これ、多分気のせいじゃないよね。
窓からの景色を見たりして結構頑張って耐えたけど、さすがにもう無視が出来なくなっている。出来るだけ穏便に別の方向を見てもらうように伝えたかったのに、トンネルの中にバスが入って行く。これじゃあ、景色を見るように促す事が出来ない。
このトンネルがどのくらい続いているのか確認したくて視線を外に向けると、窓に映る課長と目が合った。ジッとこちらを見つめる課長と窓越しに見つめ合う。視線を外す事も出来ず見つめ合ったまま固まっていると、ふいに課長が表情を緩めた。
こんな風に優しく笑うところ初めて見た。仕事中は割と真顔だし、笑う所も滅多に見たことないのに。
私以外きっと誰も気づいていないその笑顔を見て、自分の顔に熱が集まっている感じがして慌てて視線を逸らす。そっと両手で自分の顔を触ると、やっぱりほのかに熱い。
隣からクスクスと小さく笑う声が聞こえてきて横目でソっと覗くと、課長が手を口元に当てながら笑っている。
そんな風にも笑うんだ……って、そうじゃないか。笑われてるの私だし。
私を揶揄って反応を楽しんでる気がして、ちょっとだけムッとする。何事も無かったかのように体勢を戻すと、丁度トンネルも抜けたようで窓の外の景色が変わった。
「課長、私の事なんて見てないで景色を楽しんでください」
さっきと打って変わってニッコリ笑顔で言うと、課長が少し動揺しているのが分かった。
ちょっとだけ嫌な言い方になっちゃったけど、仕方がないと思う。だって課長が揶揄うのが悪いんだから。
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