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ゼンブを超える、“大好き”を。
水曜日と金曜日は、正直ちょっと憂鬱な気持ちになる。何故ならば親友の夢乃が美術部で、その日は一緒に帰ることができないからだ。長身で勇ましい彼女だが、絵を描くのが好きで可愛いものが好みという女の子らしい一面も持っている。コンテストに提出する作品の締め切りも近く、今は一生懸命作品作りに集中しているところらしい。
彼女自身のことも好きだが、彼女の描く力強くも繊細なタッチの絵も大好きな私である。邪魔したいとは全く思わなかった。一緒に帰れないのは残念だが、だからといって部活を休んで欲しいなど言えるはずもない。
「マジでごめんな、瑞歩。今日だいぶ居残るつもりだから、あたしのこと待っててもらうとなると相当遅くなっちまうんだわ。先に帰ってて貰えないかな」
「いいって、気にしないで!また明日ね、夢ちゃん」
「おうよ」
部室棟の方へと遠ざかっていく彼女のポニーテールを見送りながら、私は昇降口へと向かって行った。昔からいじめ――というほどではないが、空気が読めずに引っ込み思案であった私は孤立しがちで、悪口の対象にされることが多かったのである。
それを助けてくれたものの一つが、同じクラスになった夢乃の存在だった。彼女は恵まれた長身がありながら、身体はあまり丈夫ではないのであまり激しい運動ができない体質だ。しかしスポーツはできなくても、好きなことを見つけて頑張ることは十分にできる。あたしにゃ絵があるから全然問題なのさ!といつも明朗快活に笑ってみせるのが彼女だった。
私とはまるで正反対。だからこそ、見ていて飽きないし話しているのは本当に楽しい。彼女がいてくれるからこそ、少なくとも今のクラスは楽しく過ごすことができているのだ。去年、中一の途中で転校してきたのが夢乃だった。出来ればそれこそ小学校から彼女と一緒に過ごせていたら楽しかったのに、と思うことは少なくない。
そして、私を助けてくれた、もう一つのものは。
「あった……!」
今日も、私の下駄箱には手紙が入っていた。いつもと同じ、水色の便箋だ。このご時世に手紙なんて、と言われるかもしれないが。個人的には手紙という形になっているだけで、温かみを感じるし手にとった時の喜びもひとしおだと思うのである。
私には、秘密の恋人がいる。
中一の終わりから今日までずっと――下駄箱の文通だけで繋がっている、そんな恋人が。
『瑞歩さんへ』
いつも待ちきれず、その場で封を開けてしまう私。そこには、丁寧な角ばった字で、いつも優しい文字が綴られている。
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