ゼンブを超える、“大好き”を。

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『毎日お手紙を送ってしまって、すみません。  臆病な俺を許してほしいです。本当は瑞歩さんと会ってちゃんとお話したいけど、勇気が出なくてお手紙になってしまいます。  今日、瑞歩さんが一生懸命ディベートに参加しているのを見ました。自己主張があまり得意ではなくて、自分の意見をはっきり言えなくて悩んでいると仰っていましたが、今日の瑞歩さんは本当にカッコ良かったです。去年より明るくなったような気がするし、少しは自信が持てるようになったのでしょうか。そうだったら嬉しいです。  瑞歩さんの、はきはきした声、大好きです。これからも陰ながら応援しています。  それと、瑞歩さんが好きだと言っていた、“タツマキナイン”のアニメを見ました。もっと早くに知りたかった!と思うくらい、とっても面白かったです。  僕が入院していた時も、あのアニメの漫画を持っていくことができたら、毎日飽きずにすんだだろうになあと思いました。みんな好きですが、やっぱりキャプテンが一番好きです。一番面白かった試合は……』  あまり文章を書くのは、得意ではないのだろう。拙いが、それでも一生懸命な文字が二枚の便箋にいっぱいに書かれている。  そして、最後には小さく、可愛いクマのイラストが。どうやら前回の手紙で、私がクマのキャラクターが好きだと言ってくれたのを覚えてくれていたらしかった。 ――こんな私のことを、見ていてくれる人がいる。好きだと言ってくれる人がいる。  先述したように。私は慎重すぎる性格から、悪口を言われたり孤立したりが絶えない人間だった。みんなの雰囲気を悪くしないように笑顔を振りまけば、どんな時でもへらへらしている中身のないヤツだと言われ。明るい人間を演出しようとみんなの輪に加わって話をしようとすれば、空気が読めない発言ばかりをして場を壊すと責められる。  友達を作りなさいと言われても、どうすれば友達というものができるのかがわからない。どうすれば、人に迷惑をかけず、役に立てる人間になれるのかがわからない。  そんなことが続けば、暗くて臆病な性格が出来上がるのも無理からぬことではあっただろう。目立って叩かれるくらいなら、いるかいないかもわからぬ暗い人間として評価されていた方が幾分気楽ではある。班分けはグループ分けの時だけは、どこにも混じることができない苦痛を味わう羽目になったけれども。 ――こんな私のことなんか、好きになってくれる人なんかいるわけない。だって自分がみんなの迷惑になってるのはわかるのに、何がいけなかったのかいくら考えてもわからないんだもの。……みんなが当たり前のようにできてることが、私にはできないんだもの……。  そう思っていて生きてきた中一の終わり。ちょっとした事件が起きた。  席替えの時、予想通り私の隣に座りたがる人間はおらず――結果、やや悪意のあるジャンケンが発生したのである。ようは、そのハズレ席に誰が座るのか、で押し付け合いのようなものになったのだ。先生は我関せずで、助けてくれる気配がなかった。みんなで相談して好きなように席を決めてね、と放り投げるような教師だったので最初からアテになどしていなかったけれど。  結果、女子生徒のひとりが“ハズレ”を引き、私の隣に座ることになる。みんなに“可哀想にね”“ハズレだったよね”と慰められることになったのである。それが、どれほど私の心をざくざくと切り刻むことになったか、彼らは理解しているのだろうか。――否、それとも。己が“ハズレくじ”であることがわかりきっていたのだから、傷ついた自分の方がおかしかったというのだろうか。  その日は殆どを泣いて過ごし、残りの授業も何も耳に入らない状態だった。そして、そんな泣き暮らして帰った翌日のこと、その手紙は私の下駄箱の中に入っていたのである。  彼は己を、“K”と名乗った。  そして瑞歩さんのことが好きです、と告白してきたのである。
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