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「だって、キミね。顔可愛いし、ちいせぇし、毛ぇ生えてないし」
「おうおう、そこまで言うなら彼方も触ってみろや」
無理に決まってんだろ。なんて笑いながら、彼方は適当なLSSに触れてみる。その瞬間、彼方も青い光に包まれた。
眩しくて、また目を閉じると、脳に大量のデータが流れ込んでくる。とにかく記号の羅列。コンピューターの中身のようで、何て読むのか分からない。脳がパンクしそうなほど、彼方の意識に次々となだれ込んで来る。割れるように頭が痛かった。叫びたいけど、声は出なかった。瞳孔の裏側にも光が焼きついていて、目を閉じているはずなのに眩しかった。
暫らくすると、瞳孔の光が一瞬にして消えた。それと同時に、謎の情報だらけで一杯だった頭が空っぽになった。ふと彼方が目を開いてみると、視界に三百六十度の全方位が写っていた。
「なっ、なんだよ……。これ」
「……おいおい、お前も乗れてるぞ!」
雅也がぽつりと呟いた台詞を聞いて、彼方は耳を疑った。
「……え?」
「アルコールの、匂いしねえか?」
確かに言われてみれば、目を開いたときから、アルコールの匂いが彼方の鼻についていた。稼動中のLSSは、機内にアルコール交じりのガスが発生することを彼方は知っていた。今までほとんど嗅いだことの無い匂いを真っ向から受け、衝撃を感じる。男性はアルコール遺伝子を持たない筈だから、このままでは酔いつぶれてしまうのではないか、そう不安を感じながらも彼方は自分の状況を確認する。
「オレ、装備してるのか?」
「見りゃ分かんだろ」
LSS姿の雅也に言われて、彼方はため息を吐いた。鏡も無いのに、自分の姿が見える訳が無い。しかし、視界が三百六十度になっているのは、どう考えても生身のそれでは無いのは確かだ。
腕を動かしてみると、視界に機械の手が現れた。手のひらを自分の目の前で、グーパーと開いたり閉じたりと動かしてみる。機械の手が鉄音を立ててその通りに動いている。装備出来るだけではなく、実際に動かせていた。
「……これ、動くぞ」
「だなぁ!」
軽快な声をあげて、雅也はその場でジャンプを試みる。軽く跳ねただけなのに、LSSの頭部パーツが天井にぶつかってしまいそうなほど飛び上がった。
「……え」
雅也が機体ごと飛び上がった瞬間、彼方の頭に一つの懸案事項が過ぎった。LSSは確か結構重かったはず、燃料を入れてない乾燥重量で二百キロだったと読んだ覚えがあったのだ。
目の前の機体が、大きな音を立てて着地した。部屋は小さく揺れ、天井から埃がパラパラと舞い落ちてきた。やってくれたな。彼方はLSS姿のまま、その場でうなだれた。
廊下からバタバタと、複数の足音が聴こえてきた。今の大きな音に気付き、誰かがこの部屋に向かってくる証拠だろう。どうする、と彼方は今までに無いくらいの焦りを感じた。
きっと、これは男性でも使えるような試作機だと彼方は考えた。でなければ、仮に雅也が装備出来たとしても、自分が装備出来る理由にならない。その場合、注意されるだけじゃ済まない。最悪、刑務所行きとなる。なんとかしなければ、なんて思った瞬間。背中のドアが大きく開いた。
「なにごとっ!?」
先ほど雅也に部屋を教えた試験官と、数名の同じ格好をした人が部屋になだれ込んできた。終わった、と彼方は完全に腹をくくった。
「LSSに乗っているのは誰? 装備解除しなさいっ!」
「……は? どうやってだよ?」
雅也は微塵も焦りを感じていないようで、いつもの呑気な声で答えた。
「装備解除と強く念じなさい」
彼方は両手を頭に上げて、装備解除と強く念じた。頭の中で機械の音声が「通常モードに移行します」と響いた。
再び青色の光に包まれた彼方は生身の身体となる。ちゃんと服は着てるし、気持ち悪さも感じない。すると目の前の試験官数人が、仰天した顔になっているのに気付いた。まるで彼方がここに居ることがおかしいような、そんな反応だった。
「貴方……男性?」
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