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装備を解除した雅也と二人で、奥の会議室みたいなところに連れてかれた直希。これから警察を呼ばれ、保護者を呼ばれ、学校にも連絡をされるのだろう。受験は中止、高校も退学。そんな成り行きを予想していたので、テーブルの上にコーヒーが出された時は少し驚いた。
最近の公務員は、罪人にコーヒーをご馳走するのか。それとも、これには毒が入っていたり。それは無いだろうから、きっと記憶を消すクスリでも入っているのだろうか。なんて、彼方は思っていたが。雅也がたっぷりのミルクと角砂糖を三つも入れて、平気そうな顔で飲んでいた。毒見役のお陰で、彼方も安心して頂くことが出来た。
それまでの経緯をなるべく伝わりやすいように、彼方は説明した。こういうときは、なるべく自分から説明するようにした方がいい。黙っていたって自分の立場を危うくするだけだし、雅也は呑気そうにコーヒーを飲んでいるだけだし。
どうやら、試験官は雅也を女の子を間違えて、LSS学部の入試を受けに来ているのだと勘違いして道を教えたらしい。忙しくて、奥だというような雑な説明をしてしまったことも謝罪した。
そして、例のLSSは試作機でも何でも無く、ただの量産機だと説明をした。全ての男性も乗れるようなLSSは今のところ無いし、スピリッツ無しで稼動させるのは不可能。なので現在、アルコール遺伝子の無い男性が動かすものを作ることは、事実上不可能だと述べた。
それなのに、二人はLSSを稼動させた。十数分ほど機動していた筈なのに、二人は微塵も酔ってはいなかった。
つまり、二人にはアルコール遺伝子があると考えられた。
まず始めにもう一度、名前を確認された。吉見彼方、中野雅也と交互に二人は本名を告げる。予想通り、彼方は母親の名前を出された。
「そうです、オレは吉見加奈子の息子です」
彼方の台詞に、桐井大学の教師の面々が驚いた顔になる。
連絡を入れてから十数分後、やってきたのは彼方の母親。吉見加奈子だった。試験官に事情を説明された加奈子は、大喜びで二人に抱き着いた。自分の息子とその親友が、ジャパルトにも数人しか居ない特別な遺伝子を持っていると聞いて、喜ばない親は居ないのだ。
本来なら、この後は桐井大学にて適性検査を行う予定だったのだが。加奈子の権限で、それは別の場所で行われる流れとなった。タクシーを呼んで、二人は吉見家へと移動した。
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