第四話 自己紹介

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「それでは出席を取ります。セパージュで呼ぶので、今日は自己紹介も兼ねて本名と何か一言お願い」  再びセパージュという謎の単語が入り、雅也は混乱してしまいそうになる。出席番号一番、最初に呼ばれたのは「シャルドネ」という単語だった。 「はい。彩虹あやめ、シャルドネですね。自己紹介ですか、趣味はお花を生けることです」  金髪でふわふわのロングヘアは、あからさまにお嬢様といった装いだった。彩虹と言った淑女は、礼儀正しく頭を深く下げた。 「次は出席番号二番、ピノ・ノワール」  金髪ロングヘアの淑女が腰掛けると、入れ替わるように黒髪ストレートの女性が立ち上がる。先ほどの淑女と比べると、かなり背が大きい女性だと雅也は思った。 「はい。セパージュ・ピノノワール。板垣央栄です。……自己紹介というと、そうですね。とりあえず私の弟が、そこの彩虹さんの妹の婚約者です」  彼女の台詞を聞いて、殆どの生徒は驚きの声を上げたが。それ自己紹介じゃないだろう、と雅也は苦笑いを浮かべた。 「そ、そう……」と加奈子さんも苦笑いを浮かべているのを見ると、雅也と同じ感想を持ったようだった。 「では三番、リースリング」  リースリングと呼ばれ立ち上がったのは、例の大福ぽっぺちゃんだった。大福ちゃんは緊張の面持ちで、たどたどしく口を開いた。 「は、はい。加藤おさめ、リ、リースリングです。あの……あたしがリースリングで、いいんですか?」  彼女の質問が良く分からず、雅也は首を傾げた。そもそもリースリングって何なのかを知らない彼にとっては、加藤さんの言っている意味が分からなくて当然なのだ。 「キリイ・ディアジオが決めたことなので」  加奈子さんがキッパリ言うと、焦ったように加藤さんは縮こまってしまった。  キリイといえばLSSの他にビールが有名な企業だが、ディアジオというのもビールが有名なのだろうか。ただビールで動くLSSは無い筈なので、雅也はどうでもよくなった。 「四番……と、五番はまだだったわね。出席番号六番、メルロー」  雅也の隣の席の子が立ち上がると、満面の笑みを加奈子さんに向けた。 「メルロー、鈴木貴菜です。好きな食べ物は、勿論高菜です。皆さん、よろしくお願いします!」  活発で元気のいい声に、雅也も少し頬を緩ませた。こういう女性ばかりならば、少しは女ばかりの学校生活も楽しめるかもしれない。 「はい。こちらこそ、よろしくね。……それでは七番、ピノ・グリ」  タカナさんの後ろの席へと目を向けると、銀髪の髪だったのに雅也はまず驚いた。白い肌に青い瞳は、間違いなくジャパルトの人間じゃない。 「ピノ・グリ、リリー・アレクサンドリア・スミルノフ。オラシオンから来ました」  か細い声でつぶやくように言うと、銀髪の女の子は直ぐに席へと座ってしまった。 「はい。彼女が交換留学生の一人、スミルノフさんですね。ジャパルト語は昔から勉強していたみたいなので、皆さん気軽に話しかけてあげてね」  交換留学生という加奈子さんの話を聞いて、雅也は目を丸くした。少なくとも中学や高校ではそういうものが無かったので、大学の凄さを思い知ったようだった。 「次は、シラーね」  留学生の後ろのポニーテールの女の子が立ち上がると、何故か自慢げな顔で挨拶を始める。 「出席番号八番、シラーの豊田そあら。適性スピリッツはウィスキーよ、よろしく」  口調も何処か得意げな感じなのが、何故かは雅也は分からない。ウイスキーが適正なのが貴重なんだとしたら、自分もその貴重な人間の一人だろうから、それは無いと思った。 「次は出席番号九番、ガメイ」  雅也の前の席のセミロングの女の子が立ち上がると、何故か知らないけど加奈子さんを睨みつけた。 「ガメイの豊田芹香です。なんで、あたしがガメイなんですか?」  恨めしい声に加奈子さんは同時もせずに、キリイが決めた事と言い放った。さっきの大福ちゃんもそうだけど、セパージュというのは称号か何かだろうかと雅也は思った。与えられた名前によって、ランクが決まったりするのだろうか。 「……カット・ベリーA! もー……雅也くん!」  いきなり名前を呼ばれて、雅也は慌てて立ち上がる。周囲からは再び視線が集まってしまい、恥ずかしい想いをしてしまったのだった。
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