遺言(アリア)

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遺言(アリア)

 騎士団の人に連れられて、焼け出された多くの人が馬車に乗せられて臨時に用意された宿泊所へと運ばれ、現在話をしている。  けれど左腕を半分切り落とされたリーヴァイと、犯人のターゲットになり得るアリア、メロディ、そして二人の主治医となっているヨシュアの四人はより危険が高いということで城で匿われる事になった。  ルカが連れて行かれた事を知ったメロディは蒼白となって、今は城の侍医もついて安静にしている。精神的な事で今赤ん坊が生まれてしまったら、助けられないと。  リーヴァイの腕の手術は、騎士団のエリオットがしてくれている。多少、不自由になるだろうと言っていた。筋肉が完全に切れて、骨にまで多少の傷をつけている。  だがこれはリーヴァイだからこそ、この程度で済んだそうだ。リーヴァイの体はとても七十代とは思えず、骨も筋肉も発達して若い状態らしい。だからこそ、この程度で済んだ。普通なら腕が無くなっていてもおかしくはないそうだ。  アリアは用意された部屋で一人、俯いたまま自責の念を感じていた。  もしも自分が捕まらなければ、ファウストやアーサー、ルカが捕まることはなかった。リーヴァイが怪我をする事もなかった。  捕まったとしても何かできていれば、もっと抵抗できていれば。  さっさと殺されてしまっていたら……。  苦しくて胸元を握った。診察してもらって、落ち着く為の薬を飲んだけれど落ち着かない。苦しくて、辛くて、後悔ばかりが押し寄せてくる。  そんな時、コンコンという音が響いた。 「アリアちゃん、いる?」 「ウルバス、さん?」  穏やかな声が耳に馴染む。頼りなく声をかけると、扉の外で「うん」という声が聞こえた。 「今少し、いいかな?」 「……あの」 「お願い。君の顔が見たいんだ」  静かな声でそう言われたら、足が進み出してしまった。  アリアも不安で苦しくて、誰かを欲したのだと思う。だから、ウルバスの穏やかな声に心が拠り所を求めたのだと思う。  ドアを開けると、とても静かな表情のウルバスがいて、アリアを見ると少しだけほっとした顔をした。 「あの、私……」 「うん、大丈夫だよ」 「私が……」 「アリアちゃんのせいじゃないよ」 「私!」 「うん」  こみ上げる嗚咽が止まらない。涙がボロボロとこぼれて、ギュッとスカートを握りしめる。その体を、ウルバスがそっと包み込むように抱きしめてくれた。 「アリアちゃんは、よく戦ったよ。さすがファウスト様の妹だね、強かったよ」 「強くなんてないです! 私……私が捕まったから、兄様達や父様が!」 「そんな事はない。君はメロディさんと、お腹の赤ちゃんを守ったんだよ」 「でも!」 「アリアちゃん」  わんわんと声を上げて泣くアリアを抱きしめたまま、ウルバスはずっと穏やかに声をかけてくれる。泣いて泣いて……胸の中は吐き出す言葉によって少しだけスペースができた。 「大丈夫だよ、アリアちゃん。君のお兄さんは殺そうとしても無理なくらい、強い人だから。こんな事に負けたりはしないよ」 「でも……」 「本当だよ。隣国の王様は不思議な力を持つ人でね、人の守護霊が見えるみたいなんだけれどね。その人が言うには、ファウスト様の後ろにはフル武装した軍神がついてるんだって!」 「……え?」 「本当だよ? ねっ、凄いでしょ? そんな人が、そう簡単にどうにかなったりしないよ」  突拍子も無い話。けれどウルバスは大真面目な顔をしている。キョトッとして、また少し心にスペースができた。  穏やかな笑みが優しく包むように見つめている。それを見上げて、アリアは少しだけ息が楽になって吐き出した。 「ファウスト様は大丈夫。絶対に取り戻すからね」 「はい」 「第一、ランバートが手放すわけがないでしょ? 今頃悪魔も裸足で逃げ出すような顔をして、行方を捜しているよ」 「あの……それはちょっと、申し訳ありません」 「ふふっ、大丈夫だよ」  ウルバスはにっこりと笑う。そして次には、とても真剣な顔をした。 「ごめんね、辛い事を思い出すと思うんだけれど、少し話を聞かせて」 「はい、勿論です」  アリアはしっかりとした顔で頷いた。少しでも早く、ファウスト達を見つけられるのならどんな小さな事でも思い出して話をしようと。
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