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1.メール
「野中ミサが死にました」。
俺のもとにそのたった一文だけのメールが届いたのは、年も押し迫るある日のことだった。地下鉄のホームでそれを読んだとき、特に驚かなかったのを覚えている。
メールを送ってきたのは野中さんのお母さんだ。まだ若いひとり娘の死に、彼女はショックのあまり電話することができなかったのだろう。どう返信したものかと俺はしばらく考え、とりあえず「本当ですか?」とだけ返すことにした。
野中さんは若いうちに死ぬ人だろうと最初に会ったときから思っていたし、彼女の死は事実に違いないけれど、信じたいものではなかったから。
返信はすぐに来た。
「自殺でした。自宅で刃物を胸に刺して」
ああ、野中さんらしいなと思った。
死ぬときは血をたくさん流して死にたいと彼女はよく口にしていた。
「そうしたら、私も生きてたってわかってもらえるでしょう?」
少し笑いながら話す野中さんを、俺は特に咎めることはせずに、君がいなくなったらさみしいよとだけ返す。そんなやりとりを何度しただろう。
気づいてあげられなくて本当に申し訳ない、という旨をお母さんに伝えてから、俺はスマホの電源を落とした。なにも考えたくなかった。
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