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いつからそこに立っていたのだろうか。
男は、すらりとした長身で、濡れてくしゃくしゃになった黒のレインコートを着ていたが、雪のせいで顔はよく見えなかった。
「お二人とも、どうぞ車の中へ入ってください。風邪をひきますよ」
助かった。
ありさと母はくしゃみをして、中へ入った。
暖かい。
外の男はすぐ状況をつかんで、誘導し始めた。
片手が軽く上がって、右へ前進の合図をし、すぐストップ。もう片方の手を大きく上げて、左へ前進。そして、パッとストップ。今度は、両手で少しバックの合図。そしてストップ。男は、右や左を注意深く見ながら、適切な指示を出していた。
実にあざやかな手つきだった。
父はすっかり素直な表情になって、外の男の手のままに動いている。雪はどんどん降り続いていた。
誰も、何も言わなかった。
ありさは、魔法にかかったように、外の男を見ていた。
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