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日曜の午後、ぷくちゃんの餌を買いに行くために周は街へ出ることにした。ぷくちゃんは飼っている金魚の名前だ。水泡眼と呼ばれる種類で目の下に風船のように膨らんだ袋がついている、少し変わった見た目をした金魚だった。
古いアパートの階段を下りて駅までの道のりを歩く。電車に乗って自宅の最寄駅から近くにあるターミナル駅まで三駅分だけ移動した。定期を使ったので交通費も掛からない。そんなことが嬉しかった。
――コンビニの店員だけど仕事をするっていいな。大神さんとも会えたし。
大神は今日、何をしているんだろう。スマホを見たが、メッセージは来ていなかった。まだ寝ているのだろうか。そうかもしれない。
周は駅ビルの中にあるペットショップに向かった。魚の水槽がずらりと並んでいる場所に足を止める。ネオンテトラ、グッピー、ベタ、ディスカス、コリドラス……様々な種類の熱帯魚が泳いでいる。アクアリウムに顔を近づけて中を覗き込んだ。そこは現実とは違う別世界だ。
綺麗だと思う。
水槽芸術とも呼ばれるネイチャーアクアリウムが目の前に広がっていた。木々が鬱蒼と覆い茂った西洋の森が水槽の中で忠実に再現されている。細長いナイフのような形をしたゴールデン・デルモゲニーが、泳ぎながら銀色の背をきらきらと輝かせていた。
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