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本当に感謝している。
だから、村上の期待を裏切りたくなかった。
三十歳の村上は周にとっては兄のような存在だった。コンビニの勤務先をグランノースタワーにしてくれたのも村上だった。そこならビルで働くビジネスマンしかいないから、何かあっても大丈夫だろうと。それなのに……今日は失敗続きだった。
「……でも、あの人、優しかったなあ」
周は鞄からもらったクッキーを取り出した。ピンク色の縁で彩られた窓からひよこの顔が覗いている。つぶらな瞳が可愛い。もったいなくて食べられなかった。
「願い事をしながら食べると、その願いが叶うなんて……なんか凄いな」
クッキーを電球の明かりに照らしてみる。ビニールが光を反射してきらきら光った。
やっぱり可愛い。自然と笑みがこぼれる。
何か本当に願い事ができたら食べることにしよう。周はそう決めて、ベッドに設置されているサイドボードの上にそっとクッキーを置いた。
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