【1】side Ogami……出会い

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 大神は入社以来、常にディールでナンバーワンの収益を上げ、わずか二十五歳で三百億円のポジションを持つ債券ディーラーになった。その後も債権だけには留まらず株や為替でも数字を上げ、各部署の課長を歴任した後、三十歳でこのフロアを統括する部長になった。AIでの取引が主流になりつつある現在でも、大神をはじめとする菱沼証券のディーラーたちは第一線で活躍している。  ディールは完全成果主義の雄の世界だ。  結果を出せる者だけが生き残れる。  大神はそのメンタルの強さと相場を読む能力の高さから〝ディーリングルームの鬼神〟と呼ばれていた。  鬼でも神でも構わない。  会社を儲けさせることができない証券ディーラーは屑だ。旧財閥系の老舗の看板を背負い、会社の金で博打を打たせてもらっているのだ。顧客の金で売買してセコイ仲介料を稼ぐトレーダーや、小遣いで売り買いをしている引きこもりのデイトレーダーとは訳が違う。大神は常に億単位のディールを行い、リミットなしの大博打を打つこともしばしばあった。己の食い扶持さえ稼げない証券ディーラーは、ディーラーを名乗るな。大神はそう思っていた。  ――そろそろ九時か。  東京の市場(マーケット)が開く。  さあ、来い。今日も相場の荒波をこの俺が乗りこなしてやる――。  大神はワイヤレスのインカムを装着し、発注システムにIDを入力しながら、己を囲むように設置されたチャートを映す大型ディスプレイを睨みつけた。
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