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「どこか行きたい所、ある?」
「……特にないです」
「魚が好きなら海も好きなの? 海に行こうか?」
「海……」
周がぼんやりすると大神が微笑んだ。
「さすがに今から熱帯魚のいる沖縄の海には連れて行けないけど、そうでなければ行けるよ。街から見える海がいい? それとも砂浜のある海がいいかな」
「波が来る様子を見たい……です」
「よし、決まりだ。車に乗って」
周は促されて車の助手席に乗った。中に入ると本物の革の匂いがした。周は車に詳しくないので車種までは分からなかったが、高い車であることは分かった。
「大神さんはエリートなんですね」
「どうしてそう思う?」
「なんでも知ってるし、なんでもできる。それだけじゃなくて……なんでも持ってる。僕には大神さんが完璧な人間に見えます」
「この世に完璧な人間なんていないよ。それに俺は完璧じゃない。君より少し大人なだけだ」
そうなのだろうか。
「大神さんはどんな仕事をしてるんですか? 名刺を見てもよく分からなくて……」
「証券ディーラーのこと?」
「はい」
「簡単に言うと会社の金で株や為替、債券の取引をして収益を上げているプロの投資家だ。自己資金で取引をしている個人投資家ではなく、顧客の金で取引をしているトレーダーでもなく、ただ会社を儲けさせるためにいるのが俺たち証券ディーラーだ」
「会社を儲けさせる……」
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