2017人が本棚に入れています
本棚に追加
店員を眺める。
綺麗な男だと思った。
ストレートの黒髪に色白の肌。伏し目がちの一重に、びっしりと柔らかそうな睫毛が生えている。高い鼻梁に少し薄めの唇。背はすらりと高かった。癖がない分、凡庸に見えるかもしれないが、どこか現実感のない儚げな雰囲気がその凡庸さを見事に打ち消していた。
磨けばさらに光る。そんなタイプの男だ。
おまけに繊細で趣のある手をしていた。
おどおどした態度は癇に障るが、控え目な美しさを持ったその姿に、大神はなぜか心をつかまれた。
男の愚鈍な動作を眺めながら想像する。
――この男を抱いたら一体、どんな顔をするのだろう。
ついつい、そんなことを考えてしまう。
嫌だと泣き叫びながら、歯を食いしばって男を受け入れるのだろうか。それとも案外、快楽に堕ちて甘い声を上げながら男を咥え込むのだろうか。
別にどちらでも構わない。
美しいものを無理やり奪うのも、甘やかして優しく落とすのも、どちらも好みだ。
大神は自信に満ちたプライドの高い男を落とすのが好きで、そういう意味では、目の前の男は好みの範疇から外れるが、どうしてかこの男の存在が気になった。
名札を見ると〝長月周〟とある。名前も古風で可愛い。
――落としてみたい。
ふと思った。
そして、それが容易いことも大神は分かっていた。
大神は皮肉屋で型破りの奇人ではあったが、見た目がよく、ディーラーとしての才気を一手に背負った魅力のある大人の男だった。また、これまでの人生で、それを上手く使いこなせるだけの頭のよさと如才なさを自然と身に着けていた。
――長月周……か。
大神は口の端だけで微笑んだ。
最初のコメントを投稿しよう!