【1】side Ogami……出会い

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 株式市場の後場を終えて終値を確認した後、大神はインカムを外して一息ついた。煙草が吸いたくなり、喫煙室があるフロアまでエレベーターで降りた。このビルは全館禁煙でそこでしか煙草が吸えないのが面倒だ。ガラス張りの喫煙室の横に社員が休めるラウンジがある。そこにさっきの男が腰掛けていた。  どうしたのだろう。  酷く項垂れているように見える。  手際の悪さを店長にでも叱責されたのだろうか。  大神は近づいて声を掛けた。 「どうかしたの?」  男は大神の声にビクリと体を震わせた。そんなに大きな声だっただろうか。男は大神を見上げると小さな声ですみませんと呟いた。大神のIDカードを一生懸命覗き込んでいる。 「あの……僕……皆さんに迷惑を掛けてばかりで……皆さん、とてもお忙しいのに僕が――」  予想通りの反応でがっかりする。やはり、声を掛けたのは間違いだったかなと思ったが、大神は男の隣に座った。 「客か店長にでも怒られたの?」 「え? ……あ、はい。そうです。すみません」  男はおどおどした調子で受け答えをしている。その姿にも少しだけイラッとした。だが、大神は本音をおくびにも出さず、笑顔で応対した。 「火傷、しなかった?」 「え?」 「コーヒー溢してたでしょ」 「あ、そんな……大丈夫です。し、心配して頂けるなんて光栄です」  そう言うと男はわずかに微笑んだ。 「これ、食べてみる? 可愛いでしょ?」  大神はポケットからひよこの形をしたクッキーを取り出した。ついさっき女子社員からもらったお土産のクッキーだった。大神はこんなものは食わない。しばらくしたらゴミ箱に捨てるつもりだった。
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