【2】side Amane……胸の高鳴り

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 周は今年で二十三歳になる。けれど、厳密に言うと中身はまだ十八歳だった。周は十八歳の時に家族と乗っていた車で事故に遭い、しばらくの間、意識が戻らなかった。目を覚ますと記憶が退行していて、五年分の思い出が消えてしまった。十八歳から十三歳に戻ってしまったのだ。周はその状態のまま専門医のいる病院で一年過ごした。  周はそこで外的要因による一時的な退行性記憶障害と診断された。脳の機能そのものは損なわれなかったが、結局、失くした記憶が戻ることはなかった。  事故で両親を亡くした周は医師とソーシャルワーカーの援助の下で、施設を利用しながらこの五年間を過ごしてきた。本人にその意識はなかったが、もう一度、十三歳から人生をやり直し、ようやく十八歳になった所だった。五年の間は両親が残してくれた少ない遺産で過ごしていたが、それも底をつきかけている。  周は中身が十八歳になったことを機に心機一転、一人暮らしを始め、働くことにした。村上の援助と指導のおかげで障害者雇用での仕事が決まり、大手町のグランノースタワーにあるコンビニの従業員になることができた。
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