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【5】side Ogami……蜜月
落ちてきた。
自分を満足させる玩具が、束の間の暇を癒してくれる恋人が――落ちてきた。
どうやって育てようか。
愉しくてたまらない。
期待に胸躍らせながら、大神は頭の中で先を思い巡らせた。
甘い言葉をたくさん囁いて、美味しい料理と絶え間ない愛情でお腹をいっぱいにさせる。快楽の味を教え込み、愛される贅沢を覚えさせ、目いっぱい溺れさせる。そのためには手間暇を惜しまない。何も急ぐことはない。もう、この手に落ちてきているのだ。たっぷり時間を掛けて育てよう。大神の存在がなくては生きられなくなるまで――。
夕焼けの海でキスした日から大神は周を恋人のように扱った。連絡を小まめに取り、夜は一日あったことを報告し合う。周の働いているコンビニへ頻繁に顔を出し、時間が合う時は一緒に帰宅した。大神が住んでいる芝浦のマンションと亀戸にある周のアパートは逆方向だったが、東京駅まで一緒に歩いて帰るのが日課になった。周の顔が日に日に明るく、美しいものになっていく。出会った日に大神は磨けば光ると思ったが、それが現実のものになった。
眩しい、と海辺で呟いた周の顔を思い出す。
周には純粋さゆえに全てを盲目的に受け入れてしまう、心の広さと美しさがあった。それは反対にどこか哀しくもあったが、周しか持ちえない透明な清らかさがより一層、その存在を輝かせていた。
――不思議なものだな……。
本当に眩しいのはどちらだろうと大神は思った。
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