【2】side Amane……胸の高鳴り

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【2】side Amane……胸の高鳴り

「はい、大丈夫です。心配しないで下さい……はい、また電話します。それじゃあ」  長月周(ながつきあまね)はソーシャルワーカーである村上との通話を終えた。まだ明るいままのスマホの画面を裏向ける。村上には大丈夫だと言ったが、今日は散々な一日だった。  初出勤で生まれて初めて本物の満員電車に乗った。混んでいるのは知っていたが、あんなに酷いとは思わなかった。急ブレーキが掛かるたびに人の重みで呼吸が止まり、肋骨が折れるかと思った。くたくたになってグランノースタワーに着くと、今度は入口が分からなかった。普通に入るとなぜか百貨店の中に入ってしまう。店長に電話して場所を尋ね、十四階にあるオフィスエントランスへ向かうと駅の改札にあるような機械があって驚いた。高級そうなスーツを着た人たちが次々とIDカードを翳しながら中へ入っていく。気後れしてしまった周はしばらくの間そこに立ち尽くした。  迎えに来てくれた店長と中に入ったが「店に辿り着くこともできないのか」と溜息をつかれてしまった。謝りながら遅刻ギリギリで制服に着替え、同じ仕事仲間に挨拶を済ませるとレジカウンターについた。緊張で上手く体が動かない。商品のバーコードの場所が分からなかったり、バーコードリーダーが反応しなかったりと、簡単な作業でも失敗続きだった。 「はぁ……やっぱり無理なのかなあ」  周はベッドの上で天井を眺めながら大きく息をついた。
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