確かなもの

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 少女は椅子から立ち上がり、窓に顔をくっつけんばかりに近づけると、小さな掌を目一杯広げて、おもいっきり振りました。  少年には少女が手を振るブンブンという音が聞こえてくるようでした。真上の太陽の熱が伝わったように、身体の中心が熱くなりました。  その熱の勢いのままに、少年はまた文字を書き始めます。  『おおい』と浮かぶ真下に書かれたのは、『おいらはジューク』と、さらにその下に『よろしくね』との文字が浮かびました。  それを見た少女は、うん、うん、と大きく頷きました。ジューク君かあ。 「わたしは、ア・キ・ラ」  少女は小さな口を大きく動かして、区切るように伝えました。声は届かなくても、なんとか名前を伝えたい。そんな衝動が自然と少女を突き動かしました。  少年は焦れます。少女が何かを伝えようとしているのは分かりましたが、それを知る術がありません。  せっかく知り合えたのに。  二人の思いは重なります。しかし、このままではどうしようもありません。  少年は頭を悩ませます。これは自分がなんとかするしかない。こうやって自分が書いた文字は少女に伝わる。でも、それだけじゃさみしい。  少年は空を支配する空竜様に仕える雲族の一員でした。空竜様の許しを得ると、雲族のものは雲を自由に操ることができます。残念ながら少年はまだ許しを得ていないし、いくら雲を自由に操っても、降りれる限度が決まっています。地上までは雲が持たずに、途中で消えてしまうのです。 「うーん……」  少女にも少年の悩む顔が見えます。  どうにかしたいと少女も必死に考えます。  
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