確かなもの

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 この窓を開けて大声で叫べたなら……。風にのってわたしの声は届くのかなあ……。もし、わたしに声があれば……。  少女は四歳の時に原因不明の病に犯され、声を失ってしまいました。あらゆる治療の甲斐もなく、少女の声は戻ることはありませんでした。  少年にも少女の悩む顔が見えます。その必死な顔に胸が痛みました。キュッと締め付けられるもどかしい痛み。少年にとっては初めて知るままならい痛み。  そんな時、少年の頬を風の手が優しく撫でました。 「なんだよ、キキ。今いそがしいんだよ」  それは、少年が産まれた時に空竜様から与えられた、風の精キキでした。雲族は産まれると、空竜様から風の精をつかわされます。風なので見えませんが、常に側にいる従者です。相棒として共に旅をするのです。  人懐っこいキキは、遊んでよ! と言わんばかりに少年にまとわりつきます。 「くすぐったいって! キキ、ちょっと待ってよ!」  キキはピューッと風鳴りで少年に不満を告げます。 「わかったから、あとでね。今それどこじゃないんだよ……。はあ……。なんとかならないかなあ……」  キキはなおも不満をあらわすように、少年の青い髪を激しく吹き付けました。  ブワッと逆立つ髪に目をしかめると、ブワッと少年の頭にある考えが浮かびました。そうだ! キキに頼めばなんとかなるかも!  少年は急いで棒を振り、文字を書き始めました。  
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