確かなもの

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 少年は目に映る紙飛行機が大きくなるにつれて、もどかしさよりも嬉しさが増していきました。  いよいよもうそこに、乗り出せば届くまでに紙飛行機がやってきました。  少年は水をすくうように両手を合わせて前に出します。  紙飛行機は急ブレーキをかけたように勢いを落とし、小さく左右に揺れて、ふわっと少年の手におさまりました。そのあるかなしかの紙の重さがもたらしたものは、少年にとって、今まで経験したどんな旅への第一歩よりも胸踊らす瞬間でした。  少年は紙飛行機を右手に持って、頭の上で大きく、ゆっくりと振りました。  少女は少年のとびっきりの晴れた笑顔と、大きく振られる手を見て、はあっと溜め込んだ息をはき出しました。安心のあまり座りこんでしまいそうになるのを我慢して、「良かった」との想いを込めながら、少女も右手を大きく振りました。  手を振り続ける少年の顔を、風の手がつねります。 「い、いたいよキキ! わすれてないから!」  びっくりしながらいいわけをして、少年は左手で白いズボンのポケットから細長い棒を取り出しました。緑色したその棒を雲に無造作に突き入れます。文字を書くときと同じようにくるくる回します。すると、小さな雲の渦が棒に巻き取られていきました。 「キキ、ありがとう!」  そう言って棒を雲から抜いて、ほんわりとした、少年の頭くらいの大きさのかたまりを差し出しました。  キキは少年の顔を優しく撫でて、棒だけ残し、雲のかたまりだけを綺麗に持ち去りました。
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