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確かなもの
今日も少女は少年を見上げていました。
今日も少年は少女を見下ろしていました。
二人の間をさえぎるのは窓一枚。少女にはほんのすぐそこにあり、少年にははるか遠くにある窓一枚。
少女は確信します。絶対あそこにいる。
少年は確信します。絶対見られてる。
大人達は信じてくれなくても、確かなことに胸が高鳴る。この鼓動に抗うことなんてできない。二人の純心が高まりの鐘をカンカンと鳴らし響かせました。
少年はいてもたってもいられず、立ち上がり、「おおい!」と呼びかけてみました。当然のことながら声は届きません。でも、少女の顔に浮かんだ驚きの表情を見逃しませんでした。
ならばとばかりに少年は、かたわらに置いてある三十センチくらいの銀色の棒を右手に取り、真っ白な雲に先っぽを突き入れて、くるくると回し始めました。雲の糸が棒に巻き付き、繭のように先っぽが膨らみました。
「よし。こんなもんか」
そして右手をいっぱいに伸ばして、青が広がる空間に、握った棒の先を押し付けるように振ります。すると、ふわふわとした雲の文字が浮かび上がりました。最初は『お』。また振ると、次にまた『お』。そして、またまた振ると『い』と。『おおい』との三文字がふわりふわりと浮かんで並びました。
少女は口を大きく開けて驚きました。少年が顔を覗かせているひとかたまりの大きな雲の側に、『おおい』と雲の糸で書かれた文字がはっきりと読めるのです。青いカンバスに書かれた真っ白な揺れる文字。少女はお母さんが初めて焼いてくれたスフレパンケーキを思いだしました。柔らかくて、ふわふわしていて、そして甘くとろけるような。その時と同じ温かいものが胸に沁み込んできました。
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