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マカロニ
土曜日のお昼過ぎ。午前中に用を済ませて、無性にお腹が空いたのでマカロニを茹でてみた。スパゲッティーニと悩んでみたものの、今日はやっぱりマカロニにした。
茹で時間は七分と書いてあるので、キッチンタイマーを四分に設定する。
グツグツと沸騰する大鍋に塩はかなり多目に入れる。よく海水くらいにとものの本には書いてあるけれど、もっと塩辛く。
「男の料理に二度塩なし!」
彼の言葉がふいに頭をよぎる。
「調理の過程で、もう塩は振らない。なぜならこのゆで汁で調整するから。それがスマートなんだよ」とも。彼の持論だ。
百グラムのマカロニが鍋の中で、対流に任せるままに踊る。ここで少し火を弱める。グツグツがふつふつくらいになるまで。立っていた湯気もだいぶおさまる。
「気持ちは分かるが、かき混ぜは一、二回。あとは不要。パスタに余計な粘りが出すぎるから」これも彼の持論だ。
キッチンに熱がこもって、そのせいで顔がテカってきたのが分かる。ワンルームマンションの小さな換気扇なんて、こんなものだろう。それでもないよりはましと、結局いつもの結論に落ちつく。料理好きな彼に影響されて、一くちコンロを二くちに変えてみたけれど、換気扇までは変えられないしね。
二くちコンロのもう一つにフライパンを乗せ、安いオリーブオイルをドバッと流し入れる。「ヴァージンなんて絶対使わない。加熱に使う意味がない」これまた彼の持論。大匙二杯分くらいのつもりだったけれど、少し多いかもしれない。まあ、気にするほどでもないかな。
あらかじめ包丁の腹で潰しておいたニンニク一片と、手で細かくちぎった赤唐辛子一本分を入れる。わたしは辛いのが好きだから種も一緒に入れる。
フライパンを傾けると、溜まったオイルの中にニンニクと赤唐辛子がゆっくりと落ちて浸っていく。こんな風にわたしも彼にゆっくりと浸っていったのかもしれない。なんてね。
傾けたまま上手く固定して、極弱火で熱していく。あせらず焦がさずゆっくりとオイルに香りと旨味、そして辛味を移していく。
まもなく、オイルからプチプチと小さな泡が立ち始め、ニンニクを包むようにまとわりつく。火が入って青さが消えたそそる匂いも立ち昇り始めた。ニンニクって偉大だ。これが弱点だなんてドラキュラはなんて不幸なんだろう。
「日本人はニンニクの匂い出し過ぎなんだよ」
イタリア人でもないのに彼の口癖。わたしは焦げる手前の香ばしい匂いが好きだ。なんなら少し焦げ気味でもいいくらいだ。その方が食欲を刺激される。焦げたのが嫌いなのは彼に賛同するけれどもね。そもそも今日はもう出かけないので気にする必要もない。
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