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プロローグ 落城
「どうにもならんな」
義清は骨がむき出しになった自分の鼻をかきながら
窓の外の敵の大軍を見て呟いた。
閂だけかけた大手門は時間稼ぎにもならず簡単に突破され
虎口での防戦もままならず敵は本丸の間近まで迫っていた。
「200年生きてきて最後がこれか」
義清はいわゆる転生者だった。
生まれた地球からこの世界へと転生し、迷宮の中から
己の才覚だけでどうにか這い出してきた。
200年かけて信じるに足る仲間を集め徒党を組み
小さいながらも領地と城を持った。
しかし、義清にとっては長く思える200年は他の者にとっては急進的すぎた。
ダンジョン出身のモンスターである義清が迷宮の外に出るだけでも珍事だった。
そこから自分と違う種族と交流して仲間となるなど常識外もいいところだ。
そこから成り行きで領地持ちとなった義清は王都へと行かなければならなかった。
年に一度の王都で開かれる祝賀会に参加することは
例えどんな小さな領地の貴族でも、なかば義務として行かなければならない。
そこでの他の貴族の反応は予想通りといえた。
彼らはそこかしこで義清の異様な出で立ちを蔑み
「獣にも劣る化け物がよくもここに顔を出せたな」
とあからさまな罵声を浴びせた。
義清の容姿がよくなかった。
義清の頭は狼だった。
耳から上しか毛皮がなく、それより前の目から先は骨がむき出しになっており
本来は目玉がはまるはずの場所には頭蓋の奥から赤い眼光だけがあった。
薄くなった毛皮で隠せていない腹筋の割れ目は、
文字通り割れ目となっており、そこが赤く僅かに光を放っていた。
おまけに首と胴が繋がっておらず、鎖骨から首にかけてポッカリと漆黒の闇が覆っていた。
これが靴を履いているとはいえ、手の爪もむき出しに二本足で歩いているのである。
後になって家臣から
王都の貴族たちが義清の胴体と首のあいだの闇から
何かがこちらを見ているのに怯えながら義清と話した
と噂していたと聞いて義清は苦笑した。
もちろん義清は体の中にそんな化け物は飼っていない。
「よほどワシのことが怖かったのだろうな」
手足と胸にだけ銀色の鎧をつけ陣羽織を着た義清はそっと己の襟元を撫でて笑った。
「よくまあ、この状況で笑っていられることですの」
振り返ると老ダークエルフで宰相のエカテリーナが
呆れながらこちらを見ていた。
背丈が義清の3分の2ほどしかなく、丸めた背中にローブを纏っている。
「さては何か策がおありでは?」
濁った瞳をしているとはいえ、エカテリーナの瞳からは一縷の望みを
期待しているのがわかった
しかし、エカテリーナの質問にに義清は首を振った。
「すまんが虎口を突破された時点でどうにもならなかった」
一瞬で先程の希望をやどした目を濁したエカテリーナが
階下の家臣に最後の言葉をかけるよう言い、一緒に部屋を出るように促した。
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