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全ての文に目を通し終えた時、私の視界がじわりと滲んだ。
それは間違いなく、私に宛てた手紙だった。
ただひたすらに涙が零れた。悲しいのか、嬉しいのか、とにかく感情が溢れ出して、心が一杯だった。
不安は変わらずあった。価値のない自分が生きている意味を見付けたわけではなかったから。それでも、私はもう、死にたいとは欠片も思っていなかった。
死にたくない。私は、生きていたい。
そう思うことが私の生きる理由になるのだと、信じることができたわけではない。周りの誰かが、私に価値がないことを許してくれている、とも思わない。……けれども、この世界の何処かに、同じ孤独を抱えている人が居る。
私は、私が生きていることを許してくれた誰かのことを、同じように許したかった。
何度も何度も涙を拭って、ようやく少しだけ心が落ち着いた時、既に私の手には手紙は残っていなかった。慌ててあたりを見渡したけれど、もう何処にも、手紙は見当たらなかった。
その後、私は仕事を辞め、実家のある田舎へ帰った。
両親は少し驚きはしたものの、温かく私を迎え入れてくれた。独り暮らしはしているけれど、今でも週に一回は実家に帰って、一緒に楽しく食卓を囲んでいる。
仕事も変え、慣れないことも多いけれど、やりがいを感じている。仲間にも恵まれて、今は早く力になりたいと頑張って仕事を覚えているところだ。
自分にどんな価値があるというのだろう。
そんな問いを常に胸に抱えながら、今も私は毎日を過ごしている。
けれども最近は、この問いは前ほど不安を感じさせない。
もしも、自分に価値がないのだとしても――生きたいと思うなら、それだけで生きていていい。
いつか海辺で呼んだ手紙のあの言葉を、今では少し、信じられるような気がしている。
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