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「すぐに連絡してみろ。おまえが一人で死んでいくと考えると……」
父は黙ってしまった。
「もう、お父さんったら。ほら、電話を代わってちょうだい」
「母さんも俺もお前のこと考えてるからな。恋人と仲良くな」
「うん。わかってる。わたしもお父さんとお母さんのこと考えてる」
わたしも同じ気持ちだった。
「あ、あのね……、璃子は」
電話を奪った母は、言いにくそうに聞いてきた。
「なに?」
「恋人とかいないの?お母さん、璃子がひとりで死ぬのかと思うと、かわいそうで……」
お母さんが涙声になった。
さっきのお父さんとの会話を聞いていなかったのだろうか。
お父さんとおんなじこと聞いているよ。夫婦だねえ。というか、わたしが心配かけているだけか。
「……最近、できたよ。だから、大丈夫。ひとりじゃないから」
「ほんと? よかった。じゃ、その人と過ごしなさい。人生幸せに死んでほしいわ」
お母さんはこそっと受話器にささやいた。
「わかった、連絡してみる。お父さんにもおんなじこといわれたよ」
わたしがそういうと、母は笑った。
「どんなひと?」
「うーん、優しくて、大きくて、いい人だよ」
「そっか。璃子がいいと思う人ならいいよ」
母は「また電話かけるよ」といって電話を切った。 これから弟の家にもかけるのだろう。 弟は仕事で東北へ転勤している。 思えばうちの一家は日本中に点在していたんだなと改めて思った。
弟にもメールくらいしておいてやろう。姉として。一応。
わたしはため息をついた。
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